キャリア教育

キャリア 教育

キャリア教育は、個人が自身のこれまでの経験や経歴を基盤に、現在の状況を理解し、将来を見据えながら主体的に人生や働き方を形成していくための教育活動全般を指します。特に日本では、学校教育の重要な一環として位置づけられています。

かつては、社会人の再教育を指す「リカレント教育」と近しい概念として捉えられることもありましたが、近年はその意味合いが広がり、学校段階から社会に出るまでの過程における進路選択や職業観の育成に重きを置く「キャリア教育」として明確に区別されるようになっています。広義には、社会人が専門能力の維持向上を目指すリカレント教育や生涯学習、あるいは企業における人材育成制度なども含まれますが、本項では学校教育におけるキャリア教育を中心に記述します。

日本において、キャリア教育が近年特に注目されるようになった背景には、若年層の雇用を巡る深刻な問題があります。いわゆる「フリーター」や「ニート」と呼ばれる若者の増加に対し、政府は2003年に文部科学省、厚生労働省、経済産業省、内閣府が連携し、「若者自立・挑戦プラン」を取りまとめました。このプランに基づき、将来社会を担う若者が健やかな勤労観や適切な職業観を身につけ、社会で自立できる能力を培うことを目的とした取り組みが強化され、これらが総称して「キャリア教育」と呼ばれるようになりました。具体的には、学生向けのインターンシップ推進や地域社会における人材活用の促進などが挙げられます。

学校教育におけるキャリア教育の源流は、古くは大正時代に始まった職業指導に遡ります。これはその後「進路指導」へと発展しましたが、従来の進路指導が主に上級学校への進学指導（出口指導）に偏りがちであったという反省から、より広範で人生全般を見据えた意味合いを込めて「キャリア教育」という言葉が用いられるようになりました。文部科学省は、キャリア教育を通じて児童生徒に身につけさせるべき能力として、以下の4つの柱とその具体的な内容を示しています。

1. 人間関係形成能力: 他者を尊重し、自己を発揮しながら他者と協働する力。
2. 情報活用能力: 学びや働くことの意義を理解し、多様な情報を進路選択に生かす力。
3. 将来設計能力: 夢や希望を持ち、現実を踏まえて前向きに将来を計画する力。
4. 意志決定能力: 自らの意志と責任で最適な選択を行い、課題に主体的に取り組む力。

これらの能力は、単に特定の職業に就くためだけでなく、変化の激しい社会の中で主体的に生き抜くための基盤となります。

日本の教育制度において、キャリア教育は歴史的にその位置づけを変えてきました。大正期の職業指導から始まり、戦後の教科化を経て、1950年代以降は特別活動やホームルーム活動の中で行われるようになりました。職業指導を担当する「職業指導主事」が置かれたものの、その専門性には課題も残りました。1971年には「進路指導主事」と改称され、学校教育の中に進路指導が正式に位置づけられます。その後も学習指導要領の改訂や文部科学省からの通知などを通じて、偏差値に偏らない指導の重要性が指摘されるなど、より適切な進路指導・キャリア教育のあり方が模索されてきました。教員養成においても、教育職員免許法が改正され、教職科目として「進路指導」に関する科目が設けられるなど、教員の専門性向上の取り組みが進められています。

「キャリア教育」という言葉が日本の公文書で初めて使われたのは、1999年の中央教育審議会答申においてです。この中で、小学校段階から発達段階に応じて、望ましい職業観・勤労観、知識・技能、そして自己理解に基づいた主体的な進路選択能力・態度を育む教育が必要であると明記されました。

キャリア教育を支える理論的な側面としては、心理学に基づく様々な職業的発達理論や人格理論、意思決定モデル、社会的学習理論などがあり、これらはキャリアコンサルタントの専門的な学習内容ともなっています。

文部科学省は、学校教育におけるキャリア教育の推進が現代社会を生きる上で不可欠な「生きる力」を育むことにつながると強調しています。社会の変化に対応し、直面する多様な課題に対し柔軟かつたくましく対応し、社会人・職業人として自立していく力を養うことがその意義であるとしています。そのため、学校全体で組織的・系統的にキャリア教育に取り組むこと、そしてそれが教育改革の理念となり、子どもたちの全人的な発達を支援し、教育課程の改善を促すものとして位置づけています。

近年では、学校教育におけるキャリア教育に加え、社会人の「キャリア再開発」（リスキリングなど）も注目されています。これは、変化の速い社会において、既存のスキルを更新・向上させ、あるいは新たなスキルを習得することで、自身のキャリアを持続・発展させていく取り組みであり、広義にはキャリア教育の一環と見なすこともできます。

キャリア教育は、児童生徒一人ひとりが社会とのつながりを理解し、自己の可能性を探求しながら、主体的に将来を切り拓いていくための重要な羅針盤となる教育活動です。

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