クリスマスプディング

クリスマスプディング：イギリスの伝統と風習が凝縮された冬の贈り物

クリスマスプディングは、イギリスでクリスマスを象徴する伝統的な菓子です。プラムをふんだんに使用することから、プラムプディングとも呼ばれています。しかし、その姿や味は、私たち日本人が普段想像するケーキやプリンとは大きく異なります。濃厚で芳醇な風味と、ドライフルーツの食感が特徴で、一口食べれば、イギリスの伝統と人々の想いが詰まっていることを感じられるでしょう。

歴史：中世のスープから王室のデザートへ

クリスマスプディングの起源は、中世のクリスマスに作られていた濃厚なスープや、肉と果物を入れたポリッジにあると言われています。ケルト神話の収穫の神、ダグザにちなみ作られたという説も存在します。16世紀頃にはクリスマスのシンボルとしての地位を確立しましたが、清教徒革命期にはミンスパイと共に一時的に製作が禁止された時期もありました。

17世紀、チャールズ2世の時代になると、増粘剤を加えることで現在の固形に近い形になり、チャールズ・ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』にも登場するほど、広く知られる存在となりました。そして、ヴィクトリア女王がクリスマスプディングを英国王室のデザートとして採用したことで、イギリス国民にとって欠かせないクリスマスの定番デザートとして定着していきました。

各家庭で異なるレシピと味が受け継がれ、イギリスの人々にとって、クリスマスプディングは特別な思い入れのある料理です。日本のお雑煮のように、それぞれの家庭で独自のこだわりがあり、味を巡って語り合うことも多いようです。近年では手作りよりも市販品を購入する家庭が増えていますが、伝統的な製法を守り続ける人々も多く存在します。

製法：13種類の材料と願いを込めた儀式

クリスマスプディングの材料は、パン粉、小麦粉、牛脂（もしくはバター）、卵、砂糖、ブランデー、ドライフルーツ、ナッツ類、そしてナツメグ、シナモン、クローブなどのスパイス、ラム酒など多岐に渡ります。伝統的には13種類の材料を使用するという迷信もあります。これらの材料を混ぜ合わせ、一晩寝かせます。

伝統的な製法では、生地を加熱する前に家族全員で順番に願い事を唱えながら生地をかき混ぜる儀式が行われます。この時、混ぜる方向は時計回りでなければならず、反時計回りに混ぜると縁起が悪いと信じられてきました。この習慣は、天動説に基づいた、太陽が地球の周りを時計回りに回るという迷信に由来していると言われています。

生地を型に流し込んで蒸しあげた後、約1ヶ月間冷暗所で熟成させます。この熟成期間中に果物が発酵し、アルコール分が増加するため、熟成期間が長いほど美味しくなると言われています。「クリスマスプディングを食べ終わったらすぐに、来年のクリスマスプディングを作り始める」というほど、熟成期間を大切にしていることがわかります。

食べる際には、再度蒸したり、湯煎で温め直します。ヒイラギの枝を飾り、ブランデーをかけてフランベするのが伝統的なスタイルです。カンバーランド風のラム酒入りバターやブランデー入りバターを添えていただくのが一般的ですが、ホイップクリームやカスタードクリームと一緒に食べる人もいます。

また、蒸し上げる前に生地に指輪やコイン、指貫などの小物を混ぜ込む習慣もあります。これは十二夜にケーキの中に護符を入れる習慣に由来し、切り分けた際に当たった小物で、その年の運勢を占うという風習です。

クリスマスプディング：伝統と温かみが詰まった特別な一品

クリスマスプディングは、単なる菓子ではなく、イギリスの豊かな歴史、文化、そして人々の温かい心を凝縮した、まさに「冬の贈り物」と言えるでしょう。独特の風味と食感、そして伝統的な製法や風習は、クリスマスの特別な時間を一層豊かなものにしてくれます。

もう一度検索