サウンドスケープ

サウンドスケープの概念とは

サウンドスケープ（soundscape）とは、1960年代後半にカナダの作曲家マリー・シェーファーが提唱した、音に関連する風景のことを指します。日本語では「音風景」や「音景」と訳されるこの概念は、音が景観の一部として不可欠であるとの考えに基づいています。この理論は当初から、サウンドデザインの発展につながる重要な要素となりました。

サウンドスケープの意味

サウンドスケープという言葉は、「ランドスケープ」の「ランド」を「サウンド」に置き換えたもので、「音の風景」という意味を持ちます。シェーファーの著作が日本語に翻訳されたときに「音風景」と訳されたこの概念は、近代以降、音を環境の一部として捉えるという重要性を再認識するきっかけとなりました。現代社会では、音はしばしば客観的に、そして部分的に扱われていたため、音そのものをその周囲の風景と絡めて考えていく必要があるとされ、サウンドスケープの考え方が重視されるようになりました。

音の環境と地域的な特徴

電気の普及により、電気機器の音は地域の音の重要な要素となり、それ自体が地域のアイデンティティを形成しています。例えば、特定の周波数に基づく音の調査では、50ヘルツの地域ではGシャープ音が、60ヘルツの地域ではBナチュラル音が中心音として聞かれることが判明しました。スウェーデンのスケープ市においては、厚紙工場、ガラス工場、ビール工場、金具工場などから発せられる音がGシャープ音を基にした和音を形成し、これらの音を楽譜に記録することも行われました。このように、多種多様な音の文化を調査することで、地域の文化的な背景における音の重要性を再認識し、さらにそれを大切にしていこうという姿勢が指摘されています。

サウンドマークと音響共同体

シェーファーは「サウンドスケープ」の概念を展開し、世界各地で音環境の調査を進めています。彼は地域に特有の音を「サウンドマーク」と名付け、その重要性を強調します。これらは地域のランドマークと同様に、特定の場所を象徴する音として位置づけられ、地域の特性を表現するものとなります。また、音は時間とともに変化し、コミュニティの識別や文化の理解に寄与します。天候や時間によって変わる村の音風景の研究も行われ、音を通じて生活に役立つ情報を提供する「音響共同体」という概念が生まれました。

具体的なデザイン実施例

日本においても、サウンドスケープのデザインが具体化されています。例えば、東京都府中市に位置する府中の森美術館や、大分県竹田市の瀧廉太郎記念館、東京都杉並区の「みみのオアシス」などがその代表例です。また、新潟県長岡市の国営越後丘陵公園における「Sounding Atmosphere」や、島根県出雲市のビッグハート出雲サウンド・コラム、福島県いわき市の「存在する音の海」もサウンドスケープの実践例として、地域の音環境を意識したデザインがなされています。

終わりに

サウンドスケープは単なる音の環境だけでなく、それを取り巻く文化、社会、日常の生活との関係を見つめ直す有意義なコンセプトです。音の風景を通じて地域のアイデンティティを形成し、生活に深く根ざした音の価値を再評価することが求められる現代において、この概念はますます重要性を増していくことでしょう。

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