シャニ

シャニ：インド占星術における土星神

シャニ（शनि, Śani）は、インド占星術における九曜（ナヴァグラハ）の一つで、土星を司る神です。サンスクリット語で「ゆっくり動く」という意味を持つシャニは、その名の通り、天球をゆっくりと移動し、人々の運命に大きな影響を与えると考えられています。インド占星術では、一般的に凶星と見なされることが多いですが、精神的な成長や神秘的な向上を促す側面も持ち合わせています。

シャニの姿と神話

シャニは、斑の馬が牽く馬車に乗って天空をゆっくりと移動するとされています。神話においては、太陽神スーリヤとチャーヤーの間に生まれたと伝えられることが多いですが、バララーマとレーヴァティーの子とする説もあります。太陽の子を意味する様々な名前で呼ばれることもあり、水星を司るブダが月の子、火星を司るマンガラが地球の子とされるのと同様に、天体の神格化がなされています。

図像学的には、シャニは黒い肌に黒い服を纏い、乗り物（ヴァーハナ）としてハゲワシに乗る姿で表されます。また、カラスと関連付けられることもあります。これは、シャニの持つ不吉さや、死や再生を連想させるイメージを象徴していると考えられます。

ガネーシャの頭にまつわる神話

シャニの危険性を物語る有名な神話として、ガネーシャの頭が象になった由来に関するものがあります。『ブラフマヴァイヴァルタ・プラーナ』によると、パールヴァティーが息子のガネーシャの誕生を祝う宴を開いた際、シャニは招待を一度は断りましたが、強く勧められて出席しました。しかし、シャニに見つめられたガネーシャの頭は灰になってしまったとされます。そこで、ヴィシュヌが象のアイラーヴァタの首を持ち帰り、ガネーシャの頭に差し替えたとされています。この神話は、シャニの持つ強大な力と、それによる災厄の可能性を示唆しています。

ただし、この話には異説もあり、『シヴァ・プラーナ』では、ガネーシャの頭を切り落としたのはシャニではなく、父であるシヴァ神であるとされています。これらの異なる伝承は、神話の多様性と解釈の幅を示しています。

ダシャラタ王とシャニの物語

『パドマ・プラーナ』には、シャニがローヒニー（ナクシャトラの一つ）に入ることで12年間の飢饉が起こると予言されたため、ダシャラタ王（ラーマの父）が天上に馬車を飛ばしてシャニを攻撃しようとしたという逸話が記されています。この物語は、シャニの影響力の大きさと、それを回避しようとする人間の努力を描いています。最終的にシャニはダシャラタ王に恐れをなし、飢饉を起こさないことを約束しました。これは、シャニの力が絶対的なものではなく、人間の意志や行動によって変えられる可能性を示唆しているとも言えるでしょう。

インド占星術におけるシャニの影響

インド占星術では、シャニはカルマ、義務、そして時間と関連付けられ、個人の人生における試練や困難を司る星として認識されています。シャニの影響が強い期間は、自己規律や忍耐力を試される時期とされ、過去の行いが結果として現れると信じられています。しかし、その一方で、これらの試練を乗り越えることで、精神的な成長や内面の成熟を促す力を持つとも考えられています。

シャニは、そのゆっくりとした動きによって、人々の運命に長期的な影響を与えると考えられています。そのため、シャニの影響を理解し、適切に対処することが、インド占星術における重要な課題の一つとなっています。シャニは、単なる凶星として恐れられるだけでなく、人生における教師や導き手としての側面も持ち合わせているのです。

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