パールヴァティー

パールヴァティー：シヴァ神の妃、慈愛と破壊の女神

パールヴァティーは、ヒンドゥー教における重要な女神の一柱です。その名は「山の娘」を意味し、ヒマラヤ山脈の山神ヒマヴァットの娘として生まれました。ガンジス川の女神ガンガーを姉に持ち、勇猛な軍神スカンダと知恵の神ガネーシャを息子に持つ、母なる女神でもあります。

パールヴァティーは、シヴァ神の最初の妻サティーの転生であるとされています。美しい容姿と優しい性格で知られ、多くの信者から崇拝されています。しかし、その姿は常に一定ではありません。穏やかな女神としての側面と、激しい破壊神としての側面を併せ持ち、その多様な姿はヒンドゥー教の信仰における複雑さと奥深さを象徴しています。

パールヴァティーの肌の色は、一般的には金色とされています。しかし、いくつかの神話では、当初は黒い肌をしていたとされています。シヴァ神にその肌を非難された彼女は、深い悲しみと罪悪感から森にこもり、厳しい苦行に励みました。その姿に哀れみを感じたブラフマー神が、彼女の肌を金色に変えたと伝えられています。また、この黒い肌が、破壊の女神カーリーへと変化したとする説も存在します。

パールヴァティーは、ドゥルガーやカーリーといった他の女神と同一視されることが多く、これらの女神はパールヴァティーの異なる側面、あるいは変身した姿として捉えられています。タントラ教では、シヴァ神のエネルギーであるシャクティとされ、シヴァ神とともに宇宙の根源的な力を象徴するアルダーナリシュヴァラを形成します。このアルダーナリシュヴァラは、創造と破壊、慈愛と怒りといった相反する力を統合した存在として崇められています。

仏教においても、パールヴァティーは重要な存在として認識されています。大自在天妃、烏摩妃、波羅和底といった漢訳名が用いられ、仏教曼荼羅にもその姿が描かれています。胎蔵界曼荼羅では、夫である大自在天（シヴァ）と共に、最外院の南西に位置し、三鈷戟を持ち、牛に乗って描かれるのが一般的です。大自在天が白牛に乗るのに対し、パールヴァティーは赤羊に乗るとも言われています。密教では、大自在天と共に降三世明王に踏みつけられている場面も見られます。

パールヴァティーは、その多様な側面から、数多くの別名を持ちます。穏やかな側面を表す別名としては、ウマー（親切な女）、ガウリー（黄金に輝く者）、サティー（貞淑な女）、アンビカー（母たる者）などがあります。一方、激しい側面を表す別名としては、チャンディー（狂暴な女）、バイラヴィー（恐るべき女）、ドゥルガー（近づき難い者）、カーリー（黒い女）などがあります。これらの別名は、パールヴァティーの多面的な性格と、その信仰における奥深さを示しています。

パールヴァティーは、ヒンドゥー教の信仰において中心的な役割を果たす女神であり、その慈愛と破壊の両面を併せ持つ姿は、人間の複雑な感情や宇宙の神秘性を象徴しています。彼女に関する神話や絵画は、古来より人々の信仰を集め、今日においてもなお、世界中の人々を魅了し続けています。

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