ジャマーヒリーヤ

ジャマーヒリーヤ：カダフィ大佐による「大衆の国」

ジャマーヒリーヤ（アラビア語: جماهيرية, 英語: Jamahiriya）は、かつて存在した大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国の指導者、ムアンマル・アル＝カッザーフィー（カダフィ大佐）が創り出した言葉です。これは「大衆による共同体制」を意味し、カダフィ大佐が提唱した直接民主制の概念を具現化する国家体制を表現するために用いられました。

語源と意味

ジャマーヒリーヤという言葉は、「共和国」を意味するアラビア語「ジュムフーリーヤ（jumhūrīya）」に由来します。カダフィ大佐は、「公共」を意味する「ジュムフール（jumhūr）」を複数形である「ジャマーヒール（jamāhīr）」に変化させ、「大衆」という意味を持たせました。この結果、「大衆による国」という意味合いが込められたジャマーヒリーヤという言葉が誕生しました。この語は「人民共和国」に近い意味合いを持ち、池内恵は著書『現代アラブの社会思想』で「人民体」と訳しています。

ジャマーヒリーヤは、リビアの正式名称である「大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国」として用いられましたが、英語や日本語に翻訳されることはありませんでした。カダフィ大佐は、この新語をリビアのような政治体制を持つ国を一般的に表すために考案しましたが、実際に「ジャマーヒリーヤ」を国名に採用した国はリビア以外には存在しませんでした。

成立の背景

カダフィ大佐は、著書『緑の書』の中で、直接民主主義、アラブ民族主義、社会主義、イスラームなど、多様な影響を受けた独自の政治哲学を展開しました。大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国政府は、リビアが政党や代表制議会を持たない直接民主制国家であり、国民が地方の人民会議やコミューンを通じて政治に参加していると主張していました。この体制はリビア特有のものであるとされ、既存の政治用語では表現できないため、ジャマーヒリーヤという新語が用いられました。

しかし、リビア国外からは、この体制はカダフィ大佐による軍事独裁体制であると見なされていました。公式には国家元首が存在しないことになっており（国家元首の職務の一部は全国人民会議書記が担っていましたが）、カダフィ大佐は1979年に公職を退いた後も「指導者」（Qāʼid）として君臨し続けました。公式声明では、「リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国の9月1日大革命の指導者」や「兄弟のような指導者にして革命の指導者」といった尊称で呼ばれていました。

ジャマーヒリーヤという言葉は、カダフィ大佐の思想とリビアの政治体制を象徴するものでしたが、その実態は複雑であり、多様な解釈が存在しました。

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