ムアンマル・アル＝カッザーフィー

ムアンマル・アル・カッザーフィー：リビア 革命家と長期独裁政権

ムアンマル・アル・カッザーフィー（1942年 6月7日-2011年10月20日）は、リビアにおける長期独裁政権の指導者として知られる軍人、革命家、政治家です。一般的には「カダフィ大佐」の呼称で広く認識されています。1969年のリビア革命で政権を掌握し、その後42年にわたって権力を維持しましたが、2011年のリビア内戦で政権が崩壊し、反政府勢力によって命を落としました。

名称と称号

彼の称号は「大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国の最高指導者及び革命指導者」や「敬愛なる指導者」など、数多くのものがありました。氏名表記も国や地域、メディアによって異なり、ガッダーフィ、カッザーフィー、カダフィなど、多様な綴りで表記されています。日本では「カダフィ大佐」という呼称がメディア報道などで一般的に使用されてきました。

「大佐」の呼称

カッザーフィーが「大佐」と呼ばれた理由については諸説あります。一説には、彼が敬愛するエジプトのガマール・アブドゥル＝ナーセル大統領が陸軍大佐であったことを倣ったという説、また単なるニックネームであるという説、そして革命後、儀礼的に大佐に昇格したという説などがあります。リビアの政権が建前上「国家元首」の概念を否定していたため、「大佐」という称号が国家元首を意味するものではなかったことは注目に値します。

生い立ちと初期の活動

カッザーフィーは、リビアの砂漠地帯に住むベドウィンの子として生まれました。ムスリムの学校で初等教育を受け、ナーセルのエジプト革命の影響を受け、アラブ民族主義と西洋への対抗意識を強く持つようになりました。1961年にベンガジの陸軍士官学校に進学し、在学中から仲間たちと共にサヌーシー朝王家打倒を目指した自由将校団を組織しました。卒業後はイギリス留学を経てリビアに戻り、軍人として活動しました。イギリス留学経験があるにもかかわらず、英語は苦手だったと伝えられています。

政権掌握とジャマーヒリーヤ体制

1969年 9月1日、カッザーフィーは仲間の将校らとともにクーデターを起こし、イドリース1世国王を廃位して政権を掌握しました。共和政を宣言し、国号を「リビア・アラブ共和国」と改めました。その後、「文化革命」を開始し、イスラーム、アラブ民族主義、社会主義を融合した独自の国家体制「ジャマーヒリーヤ」（直接民主制）の建設を推進しました。1977年には「ジャマーヒリーヤ」を国家の指導理念として導入し、国号を「社会主義リビア・アラブ・ジャマーヒリーヤ国」と改称しました。ジャマーヒリーヤ体制下では、最高機関として全国人民会議が設置され、カッザーフィーは初代書記長に就任しましたが、1979年に全ての公職を辞任し、「革命指導者」として指導を続けました。

汎アラブ主義と反米主義

カッザーフィーはナーセルの汎アラブ主義を受け継ぎ、アラブの統一を強く訴えました。エジプト、[シリア]]とアラブ共和国連邦を構想しましたが、本格的な統合には至りませんでした。1970年代以降は、欧米諸国、特にアメリカと対立的な関係を築き、パレスチナ解放機構]を支持しました。テロ支援疑惑も持ち上がり、[[1986年にはアメリカ軍によるリビア爆撃を受けました。この出来事以後、住居を頻繁に変えるようになったとされています。

冷戦後の路線変更と国際関係の改善

アメリカによる経済制裁を受けて以降、カッザーフィーの対外姿勢には変化が見られました。1999年にはパンナム機爆破事件の容疑者をハーグ国際法廷に引き渡し、アメリカとの国交を正常化しました。2003年には核放棄を宣言し、査察団を受け入れました。これにより、経済制裁が解除され、テロ支援国家指定からも外れました。

一方で、その特異な言動は変わることなく、2009年の国連総会では国連安保理を「テロ理事会」と批判するなど、強い個性と独自性を示しました。彼は汎アラブ主義から汎アフリカ主義へと関心の軸足を移行しつつあり、アフリカ連合の設立にも貢献しました。

政権崩壊と死

2011年、隣国チュニジアのジャスミン革命の影響を受け、リビアでも大規模な反政府デモが発生しました。カッザーフィーは徹底抗戦を呼びかけましたが、欧米諸国の軍事介入と反政府勢力の蜂起により、政権は崩壊しました。10月20日、反政府勢力に拘束され、死亡しました。彼の死の経緯については諸説あり、国際法違反の疑いも指摘されています。

人物像と私生活

カッザーフィーは、派手な衣装や独特の言動で知られていました。軍服や民族衣装を好んで着用し、若い女性兵士をボディーガードとして従えていました。私生活では複数の豪邸や専用ヨットを所有するなど、贅沢な生活を送っていたとされます。高所恐怖症であったとの指摘もあります。

家族

カッザーフィーには7人の息子と1人の娘がいました。息子たちはそれぞれ政治、ビジネス、スポーツなど様々な分野で活動していましたが、2011年の内戦で複数の息子が死亡しました。娘のアーイシャは弁護士として活動し、国連開発計画（UNDP）の親善大使を務めていましたが、内戦後解任されました。

まとめ

ムアンマル・アル・カッザーフィーは、リビアの歴史に大きな影響を与えた複雑な人物です。彼の生涯と業績は、独裁政治、アラブ民族主義、反米主義、そして国際関係の複雑さを理解する上で重要な研究対象となっています。彼の死後も、リビアは政治的、経済的混乱に直面しており、彼の遺産は依然として論争の的となっています。

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