スター・レッド

『スター・レッド』は、萩尾望都が1978年から1979年にかけて『週刊少女コミック』（小学館）に連載したSF[[漫画]]作品です。火星を舞台とした壮大なスケールと、登場人物たちの繊細な心理描写が魅力で、第11回星雲賞コミック部門を受賞しています。

概要

作者である萩尾望都自身が、連載開始時に詳細な構想がなかったことを明かしており、「地球で育てられた火星人の子が火星に帰るまでの話」という初期のイメージから物語が発展していったと語っています。

本作は、ライターによって多様な解釈がされています。

和久井香菜子は、登場人物たちが破滅に向かうことを知りながらも、それに立ち向かっていく姿を描いた物語であると評しています。
前島賢は、火星と地球の物語が銀河レベルにまで発展する壮大なSF叙事詩であり、深い孤独の中で誰かを求める切実な物語であると評しています。

あらすじ

2276年、ドーム都市ニュー・トーキョー・シティで暮らす5世代目の火星人である少女、星（セイ）。彼女は火星人の血を隠し、地球人として生活していました。しかし、謎の異星人エルグに正体を見破られ、火星への帰還を決意します。セイの帰還は、彼女自身の運命だけでなく、周囲の人々や火星そのものの未来を大きく変えていくことになります。

背景

火星史｢第1期｣

21世紀、ワープ航行技術の発展により、人類は太陽系外への植民を開始しました。太陽系内では、月や金星への植民を経て、2050年に火星のクリュセに基地が建設され、移民が始まりました。しかし、原因不明の胎児死亡が多発し、2070年に移民は中断されました。

火星史｢空白期｣

その後、火星は犯罪者の流刑地となりました。しかし、2188年に太陽系植民地間の紛争や、プロキシマ・ケンタウリなどの他星系惑星との戦争によって、犯罪者の移送が停止されました。2202年には、管理用の電子タグを付けられていた犯罪者が死亡し、火星は無人の地になったと考えられていました。

火星史｢第2期｣

2264年、再び火星を植民するため、科学者ら約300人が火星を訪れました。そこで彼らが出会ったのは、白い髪と赤い目を持ち、超能力を持つ犯罪者たちの子孫、すなわち火星人でした。人類と火星人は激しい戦闘を繰り広げ、多数の犠牲者を出しました。火星人は制圧されたと思われましたが、キンメリアに移り住み、反撃の機会を伺っていました。

この作品における火星人

火星人は、妊娠するとクリュセの地下空間で出産まで過ごします。この場所でなければ、胎児は死亡してしまうためです。地球人から火星で生まれた子供たちは、火星人の第1世代として超能力を持ち始めます。世代が経つにつれて、髪や目の色素が薄くなり、超能力は強まっていきます。第3世代で完全な火星人となります。

地球による第2期移民開始後、火星人の誕生過程を知らない地球人たちは、地下空間に妊婦が出産まで入院する医局を開設しました。

火星人は世代によって区別され、その世代はギリシャ語系の接頭辞で数えられます。モノ（第1世代）、トリ（第3世代）、テトラ（第4世代）、ペンタ（第5世代）などがあり、第2世代を表す「ジ」は作中には登場しません。名前は基本的に「名前・世代（・姓）」という形式です。

火星人は視力を持たない代わりに、透視能力を持っています。また、火星の希薄な大気の中で生きるために、空気を作り出す能力も持っています（メカニズムは不明）。その他にも、念動力やテレポーテーションなど、さまざまな超能力を持っています。特に予知能力が強い者は「夢見」と呼ばれ、予知夢を見ることができます。世代を重ねるごとに超能力は強まります。

登場人物

徳永セイ / 星・ペンタ・トゥパール（セイ）: 5世代目の火星人の少女。火星人の特徴を隠し、養父のもとで地球人として育ちました。「レッド・星」の名で暴走族「レッド・サークル」を率いる一方、女学校にも通っています。エルグと共に火星へ向かい、火星と火星人の運命を背負うことになります。最終的に肉体を失いますが、女性化したヨダカの子宮に宿り「ジュニア・セイ」として新たな人生を歩みます。
エルグ: 異星人。セイの正体を見抜き、行動を共にします。セイを愛したことで、自らの本性を解放します。
サンシャイン（陽一）: セイの兄のような存在。貿易会社の跡取り息子であり、セイの物語を見届ける役割を担います。
大内源（おおうちゲン）: ニュー・トーキョー・シティの下区のボス。セイに惚れ、身を投げ出します。
ヨダカ: 3世代目の火星人の少年。兄の志を受け継ぎ、セイを助けます。自殺したセイの養父・徳永博士の精神を追って戻れなくなりますが、最終的にセイの精神を連れて自身の肉体に戻り、肉体を女性に変えてセイを宿します。ラバーバの妻となり、助けを得ます。
シラサギ: 3世代目の火星人。ヨダカの兄。夢見の一人であり、火星の運命をセイに託すことを選びます。
黒羽（クロバ）: 4世代目の火星人。セイの暗殺を命じられます。火星人としての運命を貫こうとします。
徳永周（トクナガ・シュウ）: セイの養父。博士。火星人の制圧戦に関わり、セイを引き取って養女としました。合成芝研究家であり、セイの赤い瞳を隠すためのカラーコンタクトを開発し、与えていました。セイが火星へ向かったことで自らの運命を閉ざし、青酸カリで自殺します。
ペーブマン: 火星人研究局の局長。火星での戦闘で両手の指を失ったことから火星人、ひいては超能力者を憎んでおり、未公認ESPであるセイを執拗に追います。
アン・ジュール（アン・ジュ）: 情報局所属の公認ESP。火星人の超能力に興味を持っていますが、セイの能力を通して火星人の存在に動揺します。
ラバーバ: 地球人。カイロの地下組織「ソベク」の幹部。ボスの命を救われたことからヨダカたちを匿い、協力します。セイを宿したヨダカの夫となり、後見人としてヨダカとジュニア・セイを守っていきます。
カッパ: ESP研究所から派遣された情報員。「カッパ」は公認ESPの俗称であり、本名は不明。ひどく臆病な性格です。
ミュージュ: 美形の異星人。エルグとは種族が異なりますが、彼の上司的な立場にいます。
百黒老（ひゃくこくろう）: 火星人一族の長老。夢見たちの予知夢の結果、セイに対し苦渋の決断を下します。

書籍情報

フラワーコミックス新書判
スター・レッド 1 (1980年3月20日) ISBN 4-09-130581-4
スター・レッド 2 (1980年6月20日) ISBN 4-09-130582-2
スター・レッド 3 (1980年8月20日) ISBN 4-09-130583-0
小学館文庫文庫判（旧版）
スター・レッド 1（5世代 - ペンタ）(1983年7月20日) ISBN 4-09-190717-2
スター・レッド 2（6世代 - ヘクサ）(1983年10月20日) ISBN 4-09-190718-0
萩尾望都作品集 II B6判
スター・レッド 3 (1985年12月20日) ISBN 4-09-178023-7
スター・レッド 4 (1986年2月20日) ISBN 4-09-178024-5
小学館文庫文庫判（新版）
スター・レッド (1995年5月10日) ISBN 4-09-191012-2
フラワーコミックススペシャル A5判
萩尾望都パーフェクトセレクション 8 スター・レッド (2008年1月30日) ISBN 978-4-09-131223-5 (カラーページ復刻)

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