ステガノグラフィー

ステガノグラフィー：情報の隠蔽技術

ステガノグラフィーとは、情報を別の情報の中に秘匿する技術、あるいはその研究分野を指します。暗号技術が情報の内容を解読不可能にするのに対し、ステガノグラフィーは情報の存在自体を隠す点が大きく異なります。その語源は、ギリシャ語で「隠された」を意味する「steganos」と、「書く」を意味する「-graphia」に由来しています。

情報の隠蔽とステガノグラフィー

情報を隠蔽する技術は一般的に「情報隠蔽技術」と呼ばれますが、ステガノグラフィーはその起源となる技術です。隠したい情報を「秘密文」、それを隠すための媒体となる情報を「被覆情報」、そして秘密文が埋め込まれた被覆情報を「ステゴ体」と呼びます。被覆情報としては、画像データ、音声データ、テキストデータなどが用いられます。

ステガノグラフィーの考え方は、1990年代以降、著作権保護を目的とした電子透かし技術の発展にも繋がりました。電子透かしは、画像データなどに著作権情報や利用者IDを埋め込む技術です。

ステガノグラフィー以外にも、デジタル指紋、被覆通信路、潜在通信路、匿名通信路といった様々な情報隠蔽技術が存在します。

ステガノグラフィーの歴史

ステガノグラフィーの歴史は古く、古代ギリシャの歴史家ヘロドトスの記録には、木の板に文字を書き、蝋で覆う方法が記されています。また、古代には、使者の頭髪を剃り、頭にメッセージを刺青で刻み込み、髪が生え揃ってから相手に届けるという手法も用いられたと言われています。

日本では、古くから詩歌の中に秘密のメッセージを隠す「折句」という技法が存在します。例えば、在原業平の和歌「からころもきつつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞおもふ」の頭文字を繋げると「かきつはた」という語句が現れます。これは、文脈の中に自然に溶け込んでいるため、必ずしもステガノグラフィーとは分類されません。

その他、不可視インクや微小ドットを用いた手法など、様々なステガノグラフィーの手法が考案されてきました。例えば、画像データの各画素の濃度を1ビットだけ変化させることで、情報を埋め込むことができます。人間の目はわずかな濃度変化を識別するのが難しいため、巧妙に情報を隠蔽することが可能です。画像データは容量が大きいため、比較的容易に多くの情報を埋め込むことができます。

日本の研究活動

日本では、情報隠蔽に関する研究は、電子透かしとステガノグラフィーの2つの分野に大別されます。以前は、これらの研究は個々の研究者によって非組織的に行われていましたが、2006年末に「マルチメディア情報ハイディング研究会」が発足しました。その後、2011年4月には「マルチメディア情報ハイディング・エンリッチメント研究会」へと発展し、現在では、ステガノグラフィーを含むマルチメディア分野における国内研究の中核となっています。

ステガノグラフィーの目的

ステガノグラフィーは、様々な目的で利用されます。

諜報活動: 秘密裏に情報をやり取りする手段として用いられます。
電子透かし: 著作権保護や改竄防止のために、デジタルコンテンツに情報を埋め込みます。
著作権管理: デジタルコンテンツの著作権を管理し、不正利用を防ぎます。
情報漏洩者の追跡: 情報漏洩の際に、漏洩経路を追跡するために用いられることがあります。

ステガノグラフィーは、高度な技術を用いて情報を隠蔽する手法です。その一方で、悪用される可能性もあるため、適切な利用が求められます。

もう一度検索