ダルタニャン

ダルタニャン：史実と物語の狭間を生きた英雄

ダルタニャン（1615年? - 1673年）は、フランス、ブルボン朝時代の軍人です。本名はシャルル・ド・バツ＝カステルモール。しかし、通称の「ダルタニャン」の名で広く知られています。彼の軍人としての功績は、歴史に名を残すほどではありませんが、アレクサンドル・デュマ・ペールの小説『三銃士』に代表される「ダルタニャン物語」の主人公として、世界中で愛されています。

史実のダルタニャン

ガスコーニュ地方で生まれたシャルル・ド・バツ＝カステルモールは、家督を継ぐことができなかったため、10代の頃にパリへ上京。1633年頃には銃士隊に入隊し、軍人としてのキャリアをスタートさせます。1646年に銃士隊が解散された後は、ジュール・マザランの腹心として活動し、伝令役などを務めました。

1657年にルイ14世の下で銃士隊が再結成されると、ダルタニャンは隊長代理に就任。実質的な銃士隊長として活躍します。1661年には、ニコラ・フーケの逮捕命令を執行し、その後の裁判が終わるまでフーケの警護を担当しました。この際、護送中にフーケの妻子との面会を密かに許可したというエピソードも残っています。

その後も順調に出世を重ね、1670年にはリールの総督に就任。1673年、仏蘭戦争のマーストリヒト包囲戦で戦死しました。

デュマが描くダルタニャン

ダルタニャンをモデルにした創作として最も有名なのは、アレクサンドル・デュマ・ペールの『ダルタニャン物語』です。この物語は、ダルタニャンの下で銃士をしていた文人クールティル・ドゥ・サンドラスの偽回想録『ダルタニャン氏の覚え書き』を元に創作されました。

物語の中では、ダルタニャンは1605年生まれとされ、史実よりも10歳ほど年上として描かれています。これは、1627年から始まったラ・ロシェルの包囲戦に彼を登場させるためです。

パリに上京したダルタニャンは、アトス、ポルトス、アラミスという三銃士と出会い、友情を育みます。彼らと共にリシュリュー枢機卿の陰謀を打ち破り、数々の冒険を繰り広げます。物語が進むにつれて、それぞれの立場の違いから、親友である三銃士と敵対することも増えていきます。

小説の中では、「小柄でやせぎす」と描写されていますが、並外れた剣術の腕前を持ち、機転が利き、知恵のある人物として描かれています。女性にもてるものの、若い頃の失敗から結婚はせず、アトスの息子ラウルを自分の息子のように可愛がります。

政治的にはフランス王家に忠誠を誓う一方で、マザランには反感を抱いているという設定です。また、若くして銃士隊の副隊長にまで出世しますが、三銃士が退役すると昇進の機会を失います。しかし、ルイ14世の親政が始まると銃士隊長に就任し、最終的にはフランス元帥にまで上り詰めます。

ダルタニャンの影響

ダルタニャンは、小説、映画、ミュージカルなど、様々な形で翻案され、世界中の人々に愛されています。彼の冒険と友情の物語は、時代を超えて人々の心を捉え、多くの作品に影響を与え続けています。

三銃士 (ミュージカル)
シラノ・ド・ベルジュラック：エドモン・ロスタンの戯曲。冒頭にダルタニャンが登場します。
* 二人のガスコン：佐藤賢一の小説。『ダルタニャン物語』の空白期間を舞台に、30代のシャルル・ダルタニャンとシラノ・ド・ベルジュラックを主人公としています。

ダルタニャンは、単なるフィクションのキャラクターではなく、フランスの歴史と文化を象徴する存在として、今後も語り継がれていくことでしょう。

もう一度検索