ダーク・タワー

スティーヴン・キングが自身の「ライフワーク」と位置づけ、英国幻想文学大賞を受賞した記念碑的な長編ダークファンタジー小説シリーズ。
構想から完成まで約30年を要し、1982年から2004年にかけて全7部構成の作品として刊行されました。
物語の舞台は、時間や空間の法則が揺らぎ、荒廃が進む「中間世界」。
この世界を、そして全ての存在する宇宙を繋ぎ止めているとされる「暗黒の塔」が倒壊の危機に瀕しており、それが世界の荒廃の原因となっています。
主人公は「最後のガンスリンガー」と呼ばれるローランド・デスチェイン。彼はこの塔を見つけ出し、修復することを目指す壮大な旅に出ます。

物語の概要

物語は、ローランドが彼の宿敵である「黒衣の男」を追う場面から始まります。
広大な荒野を横断し、数々の困難を乗り越えながら追跡を続ける中で、ローランドは自身の旅が暗黒の塔へ至る運命にあることを悟ります。
旅の途中、彼は異世界、特に20世紀後半のニューヨークから、運命によって結ばれる仲間たちと出会います。
元麻薬中毒者のエディ・ディーン、多重人格の女性スザンナ・ディーン、そして一度は犠牲にした少年ジェイク・チェンバーズ。
彼らはローランドと共に「カ・テット」、すなわち運命共同体として、暗黒の塔を目指す過酷な旅を続けます。

彼らの行く手には、黒衣の男をはじめとする様々な敵やクリーチャーが立ち塞がります。
また、世界の荒廃は進み、塔を破壊しようと画策する黒幕「深紅の王」の勢力が暗躍しています。
ローランドとカ・テットは、深紅の王の攻撃から塔を支える魔法の力である「ビーム」を守るため、中間世界と現実世界を行き来しながら戦いを繰り広げます。
物語は、カ・テットが絆を深め、数々の試練を乗り越えていく過程を描きながら、最終的にローランドが暗黒の塔へと到達し、世界の命運をかけた最後の戦いに挑むまでを描写します。
しかし、その旅路の果てには、想像もつかない結末が待ち受けています。

主要登場人物

ローランド・デスチェイン: 物語の主人公であり、「最後のガンスリンガー」。強靭な肉体と卓越した射撃術を持ち、目的のためには冷酷さも見せますが、仲間との旅を通じて人間性を取り戻していきます。
エディ・ディーン: ニューヨークから引き込まれた元麻薬中毒者。皮肉屋ですが頭の回転が速く、ローランドの右腕となっていきます。
スザンナ・ディーン: ニューヨークから引き込まれた、足が不自由な多重人格の女性。エディの愛によって人格が統合され、カ・テットの一員として重要な役割を果たします。
ジェイク・チェンバーズ: ニューヨークの少年。高い知能を持ち、他者の思考に触れる「タッチ」という能力を持ちます。一度はローランドに見捨てられますが、再び彼と合流し、カ・テットの最も若いメンバーとなります。
オイ: 高い知能を持つ、犬のような姿の小動物。ジェイクと強い絆で結ばれ、旅に同行します。
ドナルド・キャラハン: 吸血鬼を狩り続けていた老神父。他のキング作品にも登場し、後にカ・テットに加わります。
ランドル・フラッグ／黒衣の男: ローランドの長年の宿敵。幾度も姿を変え、様々な世界で暗躍します。
深紅の王: 暗黒の塔の破壊を目論む、作品世界の根源的な悪の存在。キングの諸作品にもその影響が見られます。

世界観とテーマ

『ダーク・タワー』の世界観は、壮大なコスモロジーの上に成り立っています。
そこには、ローランドの祖先アーサー・エルド王の流れを汲む「純白」の勢力と、塔の破壊を目指す「深紅の王」の勢力という二つの根源的な力が対立しています。
そして、善悪に関わらず働く「カ」という力が存在します。「カ」は運命や意志を表し、ヒンドゥー教のカルマに由来するともいわれています。
この世界の安定を保っているのは、万物の源から生まれた「ビーム」と呼ばれる魔法の力であり、それが中心にある暗黒の塔を支えています。
しかし、古代の技術文明による干渉や、深紅の王の攻撃によってビームは衰退し、世界は崩壊の危機に瀕しています。

物語の大きなテーマの一つは、主人公ローランドと仲間たち「カ・テット」の間に育まれる絆と人間ドラマです。
孤独な旅を続けてきたローランドが、様々な背景を持つ仲間たちと出会い、互いを支え合いながら困難を乗り越えていく過程が丁寧に描かれます。
それぞれのキャラクターが抱える過去や葛藤、そして彼らが結成する「カ・テット」という運命共同体の繋がりが、長大な物語を推進する重要な要素となっています。

執筆背景とメディア展開

本作は、キングがロバート・ブラウニングの詩『童子ローランド、暗黒の塔に至る』やJ・R・R・トールキンの『指輪物語』からインスピレーションを受けて構想されました。
執筆は断続的に行われましたが、1999年の交通事故をきっかけに、未完のまま終わらせたくないというキング自身の強い思いから、後半の執筆ペースが上がり、短期間で完結に至りました。

日本語版は、角川書店から刊行が始まったものの、本国での出版中断により一時停止。
その後、新潮文庫から全巻が改めて翻訳・刊行され、さらに2017年には角川文庫からも加筆・修正された新版に、シリーズ外伝「鍵穴を吹き抜ける風」を追加した形で再刊行されています。

また、本作はコミック化や映画化もされています。
マーベル・コミックからは、小説の前日譚や本編を基にしたシリーズが展開。
2017年にはイドリス・エルバ主演で実写映画『ダークタワー』が公開されました。
映画は小説とは異なり、少年ジェイクの視点から物語が始まるなど、独自のアレンジが加えられています。

壮大なスケールと奥深い世界観、そして個性豊かなキャラクターたちの織りなす人間ドラマが魅力の『ダーク・タワー』は、キング作品群を繋ぐ中心的な存在であり、多くの読者を魅了し続けています。

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