ナマケグマ

ナマケグマ（Melursus ursinus）

ナマケグマは、ネコ目クマ科に属するユニークなクマであり、本種のみでナマケグマ属を構成します。インド亜大陸に分布し、特異な形態と生態を持っています。

分布

ナマケグマは主に以下の地域に分布しています。

Melursus ursinus ursinus: インド、ネパール、バングラデシュ、ブータン
Melursus ursinus inornatus: スリランカ

形態

ナマケグマは、他のクマと比べていくつかの特徴的な形態を持っています。

体長: 140-190cm
尾長: 10-12.5cm
肩高: 60-92cm
体重: オス80-145kg、メス55-90kg
全身は長い体毛で覆われ、毛衣は黒色ですが、褐色や灰色の体毛が混ざる個体や、赤褐色の個体もいます。
胸部には、アルファベットの「U」や「Y」字状の白や黄色、赤褐色の斑紋が見られます。
眼や耳介は比較的小さく、鼻孔は閉じることができます。
鼻面は長く、唇は突出し体毛がなく、可動性が大きいです。
上顎の門歯は左右に2本ずつで、上顎中央部に門歯がないため、シロアリを吸い込むのに適しています。
前肢は内側へ向かい、後肢は短いです。指趾には湾曲した白く長い爪が生えています。

分類

ナマケグマは、以下の2つの亜種に分類されます。

Melursus ursinus ursinus (Shaw, 1791)
Melursus ursinus inornatus (Pucheran, 1855)

生態

ナマケグマは、多様な環境に適応して生息しています。

草原、有刺植物からなる低木林、湿度の高い常緑樹林などに生息します。
夜行性であり、日中は休息することが多いです。
湾曲した爪を使って木にぶら下がることができ、その姿がナマケモノを連想させることから名前の由来となっています。
食性は雑食性で、主にシロアリを好んで食べますが、昆虫、鳥類の卵、動物の死骸、花、果実、蜂蜜なども食べます。
シロアリを食べる際には、唇と舌をすぼめてゴミを吹き飛ばしてから吸い込みます。
繁殖形態は胎生です。インド北部の個体群は7月に繁殖期を迎えますが、インド南部の個体群は周年繁殖します。
妊娠期間は6-7か月で、地中の巣穴で1回に1-3頭（通常2頭）の幼獣を産みます。
幼獣は生後3か月は母親と一緒に巣穴に引きこもり、その後1年6か月-3年は母親と一緒に生活します。幼獣は母親の背中につかまって移動することが特徴的です。

人間との関係

ナマケグマは、人間との間で複雑な関係を持っています。

胆嚢が薬用になると信じられているほか、インドではオスの性器が媚薬に、骨や歯、爪が魔除けになると信じられています。
大道芸用に幼獣が罠で捕獲されることもあります。
農作物に被害をもたらしたり、人を襲うこともあります。過去には、ナマケグマによる死亡事故も報告されています。
一方で、人里に降りてきて人間になつき、ペット化された例も報告されています。
農地開発、放牧、木材や果実、蜂蜜などの採取、単一種の植林による生息地の破壊、乱獲などにより、生息数は減少しています。
インドでは法的に保護の対象とされ、自己防衛や防除目的以外の狩猟、部位の取引および輸出が禁止されています。
* 日本では、かつて動物園で飼育されていましたが、2015年4月以降は飼育個体は存在しません。

ナマケグマは、その独特な生態と人間との複雑な関係から、保護の必要性が高い動物です。生息地の保全や、人間との共存に向けた取り組みが求められています。

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