ハイスクール

ハイスクール

ハイスクール（high school）は、主にアメリカ合衆国などにおいて設置されている中等教育段階の教育機関です。

アメリカ合衆国のハイスクール制度

アメリカ合衆国には、日本のような全国一律の教育制度は存在しません。教育に関する制度は各州に権限が委ねられており、さらにその内部の学区によっても大きく異なります。初等教育から中等教育までを一貫して捉えた学校制度の形態には、8-4制、4-4-4制、4-2-2-4制、5-3-4制、そして6-6制など、多様なパターンが見られます。これらのうち、アメリカ全体として比較的多くの地域で採用されているのは5-3-4制ですが、例えばバージニア州の公立学校のように、Elementary School（小学校）、Middle School（中学校）、High School（高校）から成る6-2-4制が一般的である場合もあります。

後期中等教育を担うハイスクールにもいくつかの種類があります。一般的には3年制のSenior High Schoolや、4年制の4-year High Schoolがあります。また、中等教育の全期間をカバーする6年制のCombined Junior Senior High School、いわゆる中高一貫校も存在します。多くのハイスクールは、大学進学を目指す普通科の課程と、特定の技能習得を目指す職業科の課程を併せ持つ総合制の形態をとっていますが、特定の職業技術教育のみを提供する単科のハイスクールも少数ながら存在します。

多くの国で中等教育は、初等教育と高等教育の間に位置することから、その制度設計において議論の対象となることが少なくありませんでしたが、アメリカにおいてはハイスクールそのものが、そのあり方を巡る論争の中心となることが度々ありました。特に問題とされたのは、学年の構成、教授法、カリキュラム編成、教育内容、生徒の規律といった点です。これらの問題は、突き詰めれば、ハイスクールを初等教育の延長として捉えるべきか、それとも高等教育の準備機関として模倣すべきかという、その本質的な位置づけに関する論争と密接に関わっていました。

ハイスクールの歴史

19世紀

19世紀初頭、初等教育機関の発達が進むにつれて、これに接続する形での中等教育機関が求められるようになりました。1820年代には「English High School」と称される学校が登場します。これは、古典語の学習を必須としない生徒たちを対象に、英語を核とした一般教育やより実用的な教育を提供する機関でした。1821年にボストンに設立された英語古典語学校がその先駆けとされ、このような形態の学校が、後に公立のハイスクールへと発展していくことになります。州立大学を有する州では、ハイスクールの教育が大学教育へと円滑に接続することも重視され、そのカリキュラムは古典語、近代語、英語、科学といったコース別に分化が進み、生徒が科目を選択できる選択制を導入する学校も現れました。

南北戦争終結から第一次世界大戦勃発までの約50年間は、アメリカが農業中心国家から資本主義に基づく工業国家へと大きく変貌を遂げた、まさに歴史の転換期にあたります。この産業資本主義が形成されていく過程で、全ての若者に対する中等教育へのニーズが急速に拡大しました。これに伴い、公立ハイスクールは、それまでの大学入学準備教育という機能に加え、大学に進学しない若者に対する職業準備教育という機能も兼ね備えるようになりました。しかし、このような現象は、大学入学者の平均年齢の上昇や、入学時における基礎学力の不足といった問題を引き起こし、19世紀後半には大学側からの批判や不満が表面化します。この状況に対応するため、全米教育協会は初等教育と中等教育を統一的な学校体系として捉え、両者間の接続関係について研究・討議を重ねました。その結果、初等教育の期間短縮や、中等教育の内容の一部を初等教育へ移行させることなどが勧告されました。

19世紀末から20世紀前半

全米教育協会が設置した「教育における時間の経済委員会」は、1913年の報告書で、中等教育の期間を4年と2年の二つの部門に分けるという提案を示しました。さらに同委員会のメンバーであったH.スザロは、12歳から18歳にかけての生徒の成長における大きなギャップに注目し、中等教育をジュニアハイスクールとシニアハイスクールのそれぞれ3年制に分割することを提唱しました。そして1918年には、中等教育改造委員会が『中等教育の根本原理』という報告書を公表します。この報告書では、中等教育をジュニア期とシニア期に明確に区分し、ジュニア期には生徒が自らの素質を探求し、シニア期にはジュニア期に選択した分野の専門的な訓練に重点を置くべきであると強調されました。

1940年代

1944年、全米教育協会教育政策委員会は『すべての米国青年のための教育』と題する報告書を発表しました。この報告書では、義務教育年限を満18歳まで延長することに加え、中等教育を初級、中級、上級に区分することを勧告しました。特に中級までのハイスクールを卒業した者の中で希望する者に対しては、上級中等教育（後の公立短期大学であるコミュニティ・カレッジに相当）を施すことを提言しました。また、1945年には、連邦教育局職業教育部門の審議会が「プロッサー報告」を採択しました。この報告は、ハイスクールの生徒のうち、職業技能訓練を受ける20%と、大学進学を希望する20%を除く、残りの約60%の生徒たちが制度的に等閑視されている現状を指摘し、これらの生徒たちの現実的な要求に応えるための「生活適応教育」の必要性を強く訴えました。プロッサー報告を受けて、1947年からは青年のための生活適応教育委員会（1950年からは第二次委員会）が組織され、中等教育のあり方に関する議論が進められ、その成果としての報告書が公表されました。

1950年代

1956年には、大学入学試験委員会（CEEB）が特別進級プログラムを開始しました。これは、ハイスクールで特に優秀な成績を収めている生徒に対し、大学レベルの高度なコースを提供し、教科別の試験と単位認定を行うというものでした。そして1957年のソ連による人工衛星スプートニクの打ち上げ成功（スプートニク・ショック）は、アメリカ国内に大きな衝撃を与え、科学技術競争の強化の必要性が強く認識されました。これにより、教育における能力主義の傾向が一段と強まります。1958年には国家防衛教育法が制定され、理科、数学、外国語教育の振興、そして中間レベルの技術者育成が図られました。また、大学生向けの貸与奨学金や大学院生向けの給与奨学金など、教育に対する連邦政府からの財政援助が大幅に拡大されました。

1960年代

1960年代は、アメリカ社会に大きな変化をもたらした公民権運動が大規模に展開された時代です。1954年の連邦最高裁によるブラウン判決は、南部諸州を中心に合法とされてきた「分離すれども平等」（separate but equal）という人種隔離政策を違憲とするものであり、少なくとも法律上における人種差別（de jure segregation）は否定されました。ジョンソン政権下で制定された法律には、1964年の経済機会法や1965年の初等・中等教育法などがあります。特に初等・中等教育法によって、初等・中等教育に対する連邦政府の財政支援が強化され、恵まれない環境にある生徒を対象とした多様な補償教育が実施されるようになりました。1966年に連邦教育局が公表したコールマン報告は、教育機会の均等を巡る人種差別の問題を詳細に分析し、公立学校における事実上の差別（de facto segregation）、すなわち教育施設や教職員の質における若干の格差、そして標準テストの得点における人種間の格差などが、生徒の家庭的背景や近隣地域の経済的・文化的環境の相違に深く根ざしていると結論づけました。これに対し、連邦政府は事実上の差別を解消するため、白人と黒人の学校を組み合わせるペアリング方式、学区の再編成、複数の学区を統合する統合学区制、生徒の自発的な転学を奨励する計画、通学のためのバス輸送、そして学校自体の統合といった政策を推進しました。

ハイスクールは、このようにアメリカ社会の歴史的な変遷や社会問題と密接に関わりながら、その制度や機能、そして教育の内容を変化させてきました。多様な生徒のニーズに応え、社会の期待に応えるべく、現在もそのあり方が探求され続けています。

もう一度検索