バリ舞踊

バリ舞踊：神聖なる舞と音楽の芸術

バリ舞踊は、インドネシアのバリ島で古くから受け継がれる伝統芸能です。バリ・ヒンドゥー教の信仰と深く結びつき、寺院の儀式や、人生の重要な節目となる冠婚葬祭において不可欠な役割を担ってきました。各寺院には専属の舞踊団が存在し、人々の生活に寄り添う、なくてはならない文化の一部となっています。

バリ舞踊の大きな特徴は、その高度に洗練された表現力にあります。静と動の繊細なコントラスト、そしてガムランと呼ばれる伝統音楽との完璧な調和は、観る者を魅了する神秘的な世界を作り出します。舞踊の各動作は厳格に規定されており、一つ一つの動きに名前が付けられ、脈々と受け継がれてきた伝統が息づいています。

バリ舞踊の成立と変遷

バリ島の伝統的な祭礼や儀式において、舞踊は常に重要な役割を担っていました。現在、ケチャやレゴン、バロン・ダンス、サンヒャン・ドゥダリといった舞踊が広く知られていますが、これらは元来、共同体の宗教儀礼として行われていたものです。

しかし、オランダ植民地時代、シガラジャを中心としてクビヤールと呼ばれる舞踊・音楽・ガムラン編成が生まれ、1920年代後半には観光客を介して南部にも広まりました。観光需要の高まりとともに、舞踊は宗教的文脈から徐々に切り離され、観光客向けにアレンジされた演出が盛んに行われるようになりました。この過程で、伝統的な舞踊は新たな解釈を加えられながら、現代に受け継がれています。

バリ舞踊の基本動作

バリ舞踊の動作は、全てが様式化され、それぞれの動きに固有の名前が付けられています。大きく分けて以下の4つの分類があります。

アグム (agem): 静止した立ち姿勢。重心を後ろにかける、腰をひねった状態を基本とし、肘を肩の高さまで上げます。踊りの種類によって、重心の掛け方、足の開き、手の位置、表情などが厳密に規定されています。
タンキス (tangkis): 「動き方」を意味し、アグムを装飾する動作や、次の動作への移行を促す動作などを指します。静止状態からの動き全体の総称と言えるでしょう。
タンダン (tandang): 「力動」を意味し、歩く動作などを含む、歩行に関する動作の総称です。手を振りながら歩くなど、動的な要素が強調されています。
タンク (tangkep): 表情、頭、首などの動きを用いて、喜怒哀楽といった感情や生命感を表現する動作の総称です。微妙な表情の変化によって、感情の深みと豊かさを表現します。

バリ舞踊の様式

今日のバリ舞踊は、宗教的な重要性に応じて、大きく3つの様式に分類されます。これは、バリ舞踊の専門家であるイ・マデバンデムによる分類に基づいています。

ワリ: 寺院で行われる神聖な儀式舞踊。神々への奉納を目的としており、厳粛な雰囲気の中で行われます。サンヒャン・ドゥダリ、サンヒャン・ジャラン、ルジャン、バリスなどが含まれます。
ブバリ: 寺院での儀式舞踊ですが、人前で観賞用に演じられることもあります。ワリよりも宗教的色彩は薄れ、エンターテイメント性の高い要素も含まれます。トペン、ガンブーなどが代表的です。
バリバリアン: 娯楽として人前で演じられる舞踊。宗教的な要素は薄く、エンターテイメント性を重視した作品が多く含まれます。レゴン、アルジャ、ジョゲッブンブン、ドラマゴン、バロン、ペンデッ、ジャンゲル、ケチャなどが含まれ、観光客にも人気が高いです。特にケチャは、その独特のコーラスとダイナミックな演出で世界的に有名です。また、バロンはバロンとランダの戦いをモチーフとし、宗教儀礼から派生したものです。

これらの3つの様式は、2015年にユネスコ無形文化遺産に登録され、その価値が世界的に認められています。

代表的なバリ舞踊

ケチャ: ワヤンリンマバとドイツの画家ヴァルター・シュピースの共同制作で知られ、サン・ヒャン舞踊と『ラーマーヤナ』物語を基にしています。世界ツアーを通じて世界中で人気を博しています。
* バロン: バロンとランダの戦いをモチーフとする宗教儀礼舞踊で、19世紀末に成立しました。観光客向けに演劇性を高め、現在ではバリ全島に広がっています。

バリ舞踊は、宗教、音楽、演劇が一体となった、神秘的で魅力的な芸術です。その奥深い世界に触れることで、バリ島の文化と歴史への理解がより深まることでしょう。

もう一度検索