ファルサ

イタリア語で「笑劇（しょうげき）」を意味するファルサ（farsa）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて、特にイタリアの都市ヴェネツィアで発展したオペラのユニークなジャンルです。

概説と特徴

ファルサの最も顕著な特徴は、その簡潔な形式にあります。多くの場合、一幕で完結する短いオペラとして構成され、時に劇の合間や幕間に短いバレエが付随して上演されることもありました。これらの作品は、主にヴェネツィアの劇場で初演され、中でもサン・モイゼ劇場（Teatro San Moisé）は、ファルサの主要な上演拠点として知られています。上演時期は、ヴェネツィアが最も活気に満ちるカーニヴァルの期間に集中することが多かったようです。

音楽的な観点から見ると、ファルサは当時のイタリア・オペラにおいて主流であったドラマ・ジョコーソ、すなわち悲劇的な要素と喜劇的な要素を融合させたジャンルから派生したと考えられています。しかし、ファルサはその発展過程で、イタリア国外の音楽劇からも影響を受けています。例えば、フランスで流行したComédie mêlée d'ariettes（短いアリアを交えた喜劇で、オペラ・コミックの一形式）のようなジャンルの特徴が、ファルサの音楽や構成に取り入れられた例も見られます。

作品と作曲家

18世紀に制作されたオリジナルのファルサ作品の中で、今日でも継続的に上演されたり、広く知られたりしているものは、残念ながら少ないのが現状です。しかし、このジャンルは19世紀初頭にかけても重要な作曲家によって手がけられました。

中でも、ジョアキーノ・ロッシーニ（Gioachino Rossini）は、ファルサの形式において傑作を複数生み出し、このジャンルの芸術的な可能性を大きく高めた作曲家として知られています。ロッシーニが作曲した代表的なファルサ作品には以下のものがあります。

『結婚手形』（La cambiale di matrimonio, 1810年）
『幸せな間違い』（L'inganno felice, 1812年）
『絹のはしご』（La scala di seta, 1812年）
『ブルスキーノ氏』（Il signor Bruschino, 1813年）
* 『アディーナ』（Adina, 1818年）

これらの作品は、若きロッシーニの才気あふれる楽想や劇的なセンスが凝縮されており、現在でも頻繁に上演されています。また、ロッシーニの別の作品『成り行き泥棒』（L'occasione fa il ladro, 1812年）は、形式上の名称は「Burletta per musica」となっていますが、実質的にはファルサと見なすことができます。

現代における位置づけ

ファルサは、オペラ史における特定の時期、特に18世紀末から19世紀初頭にかけてのヴェネツィアの劇場の活気と、短く機知に富んだ演劇形式への需要を反映したジャンルと言えます。今日では、主にロッシーニをはじめとする一部の作曲家の作品を通じて、この興味深いオペラの形式に触れる機会が提供されています。

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