ブルスキーノ氏

『ブルスキーノ氏、または冒険する息子』

ジョアキーノ・ロッシーニ作曲の1幕オペラ・ファルサ（笑劇）である『ブルスキーノ氏、または冒険する息子』（Il signor Bruschino, ossia Il figlio per azzardo）は、ロッシーニが初期に手がけた作品の一つです。今日では全曲が上演される機会は少ないものの、序曲はコンサートなどで頻繁に演奏され、親しまれています。

概要

このオペラは1812年に作曲され、ロッシーニがイタリアで作曲した最後のオペラ・ファルサとなりました。オペラ『試金石』の初演後、ロッシーニがヴェネツィアに戻った際に作曲を依頼されたもので、作曲開始は1812年10月か11月初旬頃とされています。

1813年1月27日、ヴェネツィアのサン・モイゼ劇場で初演されましたが、上演はたった1回のみで、その後お蔵入りとなりました。自筆スコアも一時行方不明となりましたが、45年後、ポーランドの貴族ポニャトウスキによって発見され、ロッシーニのもとに届けられました。ロッシーニはこれを大変喜んだと伝えられています。

初演の失敗の原因は、上演の出来が悪かったことに加え、劇場側とロッシーニの間に何らかのトラブルがあったとも言われています。しかし、それを裏付ける確固たる資料は存在しません。

1844年にはミラノで一度だけ上演されましたが、これは無断で改訂されたものでした。

序曲

オペラ自体が小編成でコンパクトなため、序曲も小規模なものとなっています。序奏部を持たず、ソナタ形式で構成されています。特徴的なのは、弦楽器奏者が弓で譜面台を叩くという奏法が取り入れられている点です。演奏時間は約4～5分です。

原作と台本

原作：アリサン・ドゥ・シャゼ、E.T.モーリス・ウリ『偶然の息子』
台本：ジュゼッペ・ホッパ（フォッパ）

登場人物

ガウデンツィオ：ソフィーアの後見人（バリトン）
ソフィーア（ソプラノ）
ブルスキーノ：ガウンデンツィオの旧知
ブルスキーノ2世：ブルスキーノの息子（テノール）
フロルヴィッレ：ソフィーアの恋人（テノール）
警官：（バリトン）
フィベルト：旅館の主人（バス）
マリアンナ：ソフィーアの女中（メゾ・ソプラノ）

構成

楽器編成：フルート、オーボエ／イングリッシュホルン2、クラリネット2、ファゴット、ホルン2、弦楽器、通奏低音
構成：序曲と8つのナンバーで構成

1. 序曲
2. No. 1　導入曲 "Deh tu m’assisti amore"（第1場）
3. No. 2　二重唱（フロルヴィッレ、フィリベルト） "Io danari vi darò!"（第2場）
4. No. 3　カヴァティーナ（ガウデンツィオ） "Nel teatro del gran mondo"（第4場）
5. No. 4　三重唱（ブルスキーノ、フロルヴィッレ、ガウデンツィオ） "Per un figlio già pentito"（第6場）
6. No. 5　レチタティーヴォとアリア（ソフィ―ア） "Ah voi condur volete" – "Ah donate il caro sposo"（第9場）
7. No. 6　アリア（ブルスキーノ） "Ho la testa o è andata via?"（第11場）
8. No. 7　二重唱（ガウデンツィオ、ソフィーア） "È un bel nodo che due cori"（第13場）
9. No. 8　フィナーレ "Ebben, ragion dovere"（第15場）

あらすじ

物語は、ガウデンツィオが後見人を務めるソフィアが、ガウデンツィオの旧友ブルスキーノ氏の息子、ブルスキーノ2世と結婚する予定であるという設定から始まります。しかし、ソフィアにはフロルヴィッレという恋人がおり、まだ会ったことのないブルスキーノ2世との結婚を前に、事態は複雑化します。

ブルスキーノ2世は旅の途中で宿屋に足止めされ、到着が遅れています。フロルヴィッレはこの機会を利用し、ブルスキーノ2世になりすましてガウデンツィオの邸宅に侵入することに成功します。そこへ、ブルスキーノ氏が息子に会うためにやってきます。フロルヴィッレは機転を利かせ、ガウデンツィオに自分が息子だと信じ込ませ、滑稽な三重唱へと展開します。フロルヴィッレは宿屋の借金について「父親」に謝罪しますが、ブルスキーノ氏は混乱し、ガウデンツィオからは「親らしくない」と叱責されます。

ブルスキーノ氏は訳が分からず混乱しますが、その間に、フロルヴィッレがソフィアの恋人であり、ガウデンツィオの敵対者の血筋であることを知ります。事態を把握したブルスキーノ氏は、一転してフロルヴィッレを本物の息子として認め、ソフィアと結婚させ、ガウデンツィオを出し抜こうとします。

録音

録音は多くありませんが、カルロ・マリア・ジュリーニ、イオン・マリン、ジャンルイジ・ジェルメッティらが録音を残しています。

参考文献

井上和男『改訂 クラシック音楽作品名辞典』三省堂、1998年2月10日、1101頁。

外部リンク

ブルスキーノ氏の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
台本（イタリア語）、1813年ヴェネツィア
台本（イタリア語）、ドイツ・ロッシーニ協会ウェブサイト
* ディスコグラフィー

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