フェーズフリー

フェーズフリー（Phase Free）とは



フェーズフリーとは、平常時と災害時という社会のフェーズ（状態）を区別せず、普段使用している商品やサービスが、災害時にも適切に使えるようにするという価値観を表す言葉です。この概念は、単に防災用品を備えるという発想を超え、日常生活と災害時をシームレスにつなぎ、人々の生活の質（QOL）を維持・向上させることを目的としています。

フェーズフリーの提唱者と背景



フェーズフリーの概念は、社会起業家の佐藤唯行氏によって2014年に提唱されました。佐藤氏は、防災工学の研究に始まり、国内外のインフラ事業での災害対応経験を経て、NPO法人や株式会社を設立。その経験から、防災意識の定着の難しさ、災害時におけるQOLの低下といった課題を認識し、フェーズフリーの概念を提唱しました。

フェーズフリーの普及活動



2015年には、フェーズフリー総合研究会（総研）が設立され、学会発表や講演活動を通じて、フェーズフリーの考え方が広まりました。その後、企業や行政もこの概念を取り入れ、具体的な取り組みが始まりました。2018年には、一般社団法人フェーズフリー協会が発足し、商品やサービスのフェーズフリー性を認証する制度もスタートしています。

フェーズフリーの定義と5つの原則



フェーズフリーとは、平常時と災害時といった区別なく、あらゆる状況下で適切な生活の質を確保しようとする概念です。その実現のため、以下の5つの原則が提唱されています。

1. 常活性: どのような状況でも利用できること。
2. 日常性: 日常生活で普段から使えること、日常の感覚に合っていること。
3. 直感性: 使い方が分かりやすく、使用限界が理解しやすいこと。
4. 触発性: 防災意識や災害に対するイメージを喚起すること。
5. 普及性: 多くの人が参加し、広められること。

これらの原則に基づいた商品やサービスは、平常時だけでなく災害時にも有効に活用でき、社会全体の脆弱性を解消することに貢献します。

フェーズフリーの具体的な例



例えば、水に濡れても書ける筆記用具は、平常時でも災害時でも同じように使えるため、フェーズフリーな商品と言えます。また、災害時には、視界が悪くても自分の位置を知らせることができる機能を持つ筆記用具は、災害時における新たな価値を提供し、フェーズフリーの概念を具現化しています。

フェーズフリー誕生の背景



東日本大震災以降、防災意識は高まりましたが、その意識が日常に定着しないという課題がありました。災害の記憶は風化しやすく、災害が起こるたびに同じ悲劇を繰り返してしまうという状況を打破するため、フェーズフリーという考え方が生まれました。

私たちは平常時から災害時へと連続的に移行していくため、防災のための特別なモノではなく、普段から使えるものが災害時にも役立つという発想が重要です。フェーズフリーは、平常時と災害時という2つのフェーズを区別せず、どちらの状況でも人々の命と生活を守ることを目指しています。

フェーズフリーの歴史



  • - 2006年: アメリカのFEMAが、災害対応の循環体系（DLC）を定義し、災害から次の災害までの社会の8つのフェーズを示しました。
  • - 2011年: 佐藤唯行氏と目黒公郎氏が、著書の中で災害要因と社会の脆弱性の関係をDLCのフェーズで表現しました。
  • - 2012年: アスクル株式会社が、日用品の防災活用を紹介する冊子を配布し、佐藤唯行氏が監修しました。
  • - 2014年: 佐藤唯行氏がフェーズフリーを提唱し、平常時に使われる商品やサービスが持つ災害時の付加価値と定義しました。

商標について



「Phase free（フェーズフリー）」という言葉は、スペラディウス株式会社によって商標登録されています。これは、フェーズフリーの概念が正しく理解され、異なる意味で使われることを防ぐためです。また、この言葉を誰もが自由に使えるようにすることも目的としています。

防災とフェーズフリーの関係



フェーズフリーは、防災を否定するものではなく、防災に関わる一つの概念です。バリアフリーやユニバーサルデザイン、エコといった概念と同じように、人々の生活をより良くするためのアプローチです。防災が備えを前提とするのに対し、フェーズフリーは人々が備えられないことを前提として、あらゆる状況で役立つものを提供しようとする考え方です。

日本における具体例



今治市クリーンセンターは、ゴミ処理施設であると同時に、防災施設としての機能も備えています。平常時は地域交流の場として、災害時は避難所として利用できるこの施設は、フェーズフリーの概念を体現する好例です。

まとめ



フェーズフリーは、平常時と災害時という区別をなくし、日々の生活を豊かにしながら、災害時にも安心して過ごせる社会を目指す概念です。この考え方は、商品開発やサービス提供だけでなく、私たちの生活における意識改革にもつながります。

参考情報




関連情報



  • - ローリングストック: 日常的に使うものを多めに備蓄し、消費期限の近いものから順に使うことで、防災備蓄を常にローテーションさせる手法。

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