プライム・ローズ

プライム・ローズ:手塚治虫のSFヒロイックファンタジー



手塚治虫の漫画作品『プライム・ローズ』は、1982年から1983年にかけて『週刊少年チャンピオン』で連載されたSF漫画です。当初、手塚治虫自身はSF作品を希望していましたが、編集部の意向により、SF要素を薄め、剣と魔法の世界観を取り入れたヒロイック・ファンタジー的な作品へと方向転換されました。

手塚治虫は、この作品の世界観を説明する際に、ハンナ・バーベラ・プロダクションのアニメ『原始家族フリントストーン』を例に挙げています。原始時代を舞台としながらも、石製のテレビや自動車が存在する、現代的な技術と原始的な生活が混在する世界観が特徴です。

主人公のエミヤ・タチは、手塚治虫作品お馴染みの美少女キャラクターですが、従来の作品とは異なり、恋多き性格で、物語の中で次々と恋をしていきます。また、エミヤの戦闘コスチュームは露出度が高く、セクシーな描写も多く含まれています。この点については、当時流行していたラブコメやロリコン漫画への対抗心から生まれた可能性も指摘されています。

しかし、この流行への対抗心が先行した結果、ストーリーに一貫性が欠け、主人公の突飛な行動が目立つ作品となってしまいました。そのため、連載当時には高い評価を得られず、手塚治虫自身も満足のいく作品とはならなかったようです。単行本化も遅れることになります。

連載中は、担当編集者とコマ割りや描写について綿密な相談を重ねていたことが知られています。例えば、「エミヤの裸体をどの程度描くべきか」「視線の描写をどのように表現すべきか」といった、これまでの作品ではあまり見られなかったような細かい相談が記録に残っています。

アニメ化:タイムスリップ10000年 プライム・ローズ



1983年には、日本テレビ系列の『24時間テレビ 「愛は地球を救う」』の中で、テレビアニメ『タイムスリップ10000年 プライム・ローズ』が放送されました。原作がまだ連載中、かつ打ち切りが決定していたため、アニメ版ではストーリーが大幅に変更されています。手塚治虫が構想していた結末に近いものになっているとされていますが、時間の都合上、原作と比較すると、ストーリーの骨子や主要登場人物の設定、デザインなどがかなり異なっています。

例えば、原作には近未来的なメカニックが登場するのに対し、アニメ版では古代ローマ風の生活水準が描かれています。また、原作で他の作品からデザインを流用したキャラクターは、視聴者の混乱を避けるために、アニメ版では別デザインに変更されています。

ストーリー:グロマン人とククリット人の争い



物語は、遥かな未来の世界を舞台に、グロマン人とククリット人の2つの種族が争いを繰り広げる様子を描いています。エミヤは、ククリット人のタチ家に養子として育てられたグロマン人の少女です。彼女は、グロマン人によるククリット人への支配を終わらせるために、剣の腕を磨き、総督ピラールに立ち向かいます。

一方、タイムパトロールのタンバラ・ガイは、核爆発によって1万年後の世界に飛ばされた日本の九十九里浜とアメリカのダラスの調査のために、この時代を訪れます。そして、これらの都市が、ククリット人とグロマン人の起源であることを突き止めます。ガイの弟である胆原分烈もこの世界にやってきて、物語に新たな要素を加えます。

主要登場人物



エミヤ・タチ: 原作では十七代グロマン王の娘で、ククリット人に養子に出されます。アニメ版ではククリット人として描かれます。
ピラール: 原作ではククリット人の王子でグロマン人の総督。エミヤに恋心を抱いています。アニメ版ではグロマン人として描かれ、服装なども大きく異なります。
タンバラ・ガイ: タイムパトロール。エミヤを助けたことからレジスタンスに加わります。エミヤに想いを寄せています。
ジンバ: エミヤに剣術を教える謎の老人。実はエミヤの父であることが明かされます。
胆原分烈: ガイの弟。アニメ版ではエミヤらと共に物語を進めます。
キリコ: ピラールの兄。剣の名手。
ジャーク・タチ、イルマ・タチ: エミヤの養父母。
タロ: エミヤの最初のボーイフレンド。
* パズス(デス・マスク): タイムスリップの原因となった人工衛星。アニメ版ではコンピュータ「シグマ99」と共に意志を持った存在として描かれます。

単行本とアニメスタッフ



『プライム・ローズ』は、複数の出版社から単行本が刊行されています。また、アニメ版『タイムスリップ10000年 プライム・ローズ』のスタッフも多くの著名なクリエイターで構成されています。

『プライム・ローズ』は、SFとファンタジー、そして恋愛要素が複雑に絡み合った、独特の世界観を持つ作品です。連載当時の評価は低かったものの、近年では再評価もされており、手塚治虫作品の中でも異彩を放つ作品として注目されています。

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