マウン・マウン

マウン・マウン

マウン・マウン（Maung Maung, 1925年1月11日 - 1994年7月2日）は、ミャンマー（当時のビルマ）の歴史において、特に1988年の激動期に国家元首を務めたことで知られる政治家です。彼は短期間ではありましたが、同国の大統領および当時の唯一の指導政党であったビルマ社会主義計画党（BSPP）の議長を務めました。その在任期間はわずか一ヶ月程度と極めて短かったものの、ビルマ現代史の重要な転換点に位置する人物です。

生涯と経歴

1925年に生まれたマウン・マウンは、そのキャリアを多様な分野で築きました。若い頃には軍に身を置き、第二次世界大戦中の混乱期に従軍経験を持ちます。戦後に軍を退いた後は、ジャーナリズムの世界に転身し、新聞事業の設立に携わるなど、メディア分野での活動を行いました。

彼はまた、法学にも造詣が深く、1974年にビルマで新たな憲法が制定された際には、その起草過程に深く関わった主要な人物の一人として重要な役割を果たしました。この憲法は、ビルマ社会主義計画党による一党支配体制を確立するものであり、憲法制定への関与は、当時の政治体制内における彼の地位と影響力の一端を示しています。

1988年の政治的混乱と最高位への就任

マウン・マウンが歴史の表舞台に立つことになったのは、1988年にビルマ全土を揺るがした大規模な民主化要求運動、「8888民主化運動」の最中です。学生や市民が主導したこの運動に対し、当時の指導部、特にセイン・ルイン大統領は強硬な姿勢で臨みましたが、国民の強い反発と国際的な非難に晒され、同年8月12日にセイン・ルインは大統領職および党議長職を辞任しました。

前任者の突然の辞任と政治的空白が生じた混乱の中、後継指導部の選定が進められました。そして、1988年8月19日、マウン・マウンはビルマ社会主義計画党の議長に就任し、併せて国家評議会議長として国家元首たる大統領の職も兼務することが決定されました。法学者としての経歴を持つ彼が、当時の危機的状況を収拾するための候補者として党内部で選ばれたものと考えられています。これは、約二週間続いた指導者不在の状態に終止符を打ち、新たな体制のもとで事態の沈静化を図ろうとする試みでした。

短命政権とその終焉

しかしながら、マウン・マウンが国家の最高指導者となってからの道のりは、極めて短く困難なものでした。彼の政権は、依然として収まる気配を見せない国民の民主化要求と、軍部を含む体制内部の複雑な権力力学の中で運営されることとなりました。国民の不満は根深く、彼の就任だけでは社会の混乱を抑えるには至りませんでした。

彼が大統領に就任してからわずか約一ヶ月後の1988年9月18日、事態を収拾するためとして、当時の国防相であったソウ・マウン将軍率いる国軍がクーデターを決行しました。この軍事行動により、マウン・マウン政権は崩壊し、ビルマ社会主義計画党による一党支配体制も名実ともに終わりを告げました。国軍は国家法秩序回復評議会（SLORC）を樹立し、以降、長期にわたる軍事政権の時代へと突入することになります。

マウン・マウンは、このクーデターにより公職から退き、その後の動向は公にはあまり知られていません。1994年7月2日にその生涯を終えました。彼の政権は、ビルマの現代史において、民衆運動による指導者の退陣と、それに続く軍部による権力掌握という劇的な転換期における、極めて短命な、しかし象徴的な存在として記憶されています。

参考文献として、佐久間平喜著『ビルマ（ミャンマー）現代政治史 増補版』（勁草書房、1993年）などがあります。

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