ミノル・ウエキ

植木実：パラオの発展に尽くした日系人

植木実（うえき みのる、パラオ語名：ミノル・フランシスコ・ゼイヴィエル・ウエキ、1931年 - 2021年）は、パラオの医師、実業家、そして政治家として、その生涯をパラオの発展に捧げました。彼はUeki Belau Development Incorporatedの代表取締役を務め、ベラウ国立病院の院長、元老院議員、厚生大臣、さらには日本駐箚パラオ特命全権大使といった要職を歴任しました。

生い立ちと苦悩

植木実は、日本の委任統治領であった南洋群島で生まれました。父親は愛知県出身の日本人で木材業を営んでいましたが、若くして病死。母親はパラオ人であり、彼女の手によって育てられました。彼は日本人子弟向けの学校に通いましたが、そこでは「トーミン」（島民）と呼ばれ、パラオ人集落に帰れば「日本人」と呼ばれるという、複雑なアイデンティティに苦しみました。太平洋戦争中は勤労奉仕に従事し、飛行場建設などを手伝いました。敗戦後、彼は日本人の長男として日本に送還され、パラオ人の母や兄弟と離れ離れになるという辛い経験もしています。2年後、再びパラオに戻り、医学を学ぶためにアメリカ合衆国へ渡りました。

医師・実業家としての活躍

医学を修めた植木実はパラオに戻り、医師として地域医療に貢献するとともに、観光会社の経営にも携わりました。ベラウ国立病院の院長として医療体制の向上に尽力する傍ら、ウエキベラウ開発を通じてパラオの経済発展にも貢献しました。自身が日系人であることから、日系人団体「サクラ会」を設立し、日本からの戦没者慰霊団の受け入れにも尽力しました。彼はパラオと日本の架け橋としての役割を早くから担っていたのです。

政治家としての貢献

パラオが独立を果たすと、植木実は政治家としての道を歩み始めました。元老院議員として国政に参画し、厚生大臣として国民の福祉向上に努めました。その後、日本駐箚パラオ特命全権大使として日本に赴任し、両国間の友好関係を深めるために尽力しました。2015年には、天皇皇后両陛下（当時）がパラオを訪問し戦没者を追悼された際、彼は「失った肉親を思う心は私たちも同じ。亡くなった人たちのために両陛下が来てくれることがうれしい」と述べ、歓迎の意を表しました。2018年には、長年の功績が認められ旭日重光章を受章しています。

政策と主張：パラオの未来のために

植木実は、観光産業、不動産業、自然環境保護といった分野で、パラオの未来を見据えた政策と主張を展開しました。観光産業においては、中国人観光客の急増による影響を懸念し、観光客のマナー問題や、ホテル予約の偏りなどを指摘しました。不動産業においては、中国企業による長期賃貸契約やカジノ開発計画に対し、パラオが中国に支配されることへの危機感を表明しました。また、自然環境保護の重要性を訴え、パラオ環境保護協会の発足に尽力し、ゴルフ場開発計画を厳しく批判しました。

また、パラオにある韓国人慰霊塔の碑文内容が事実と異なると主張し、碑文の修正を訴えました。首都マルキョクへの遷都に際しては、新古典主義に基づいた国会議事堂の意匠について、パラオが自由と独立を世界に発信する象徴であると説明しました。

人物像

植木実は、日本語に堪能であり、龍谷大学での講演を全て日本語で行うなど、その語学力は高く評価されていました。パラオ人の母親から日本人としての教育を受け、箸の持ち方や礼儀作法などを厳しく教え込まれたそうです。彼は、パラオと日本の両方の文化を理解し、尊重する人物でした。

植木実の生涯は、パラオの発展と日パラオ友好関係の深化に貢献した、一人の日系人の足跡として、深く記憶されることでしょう。

参照: nippon.com, 国土交通省, 在日本パラオ大使館公式サイト

もう一度検索