ローグ

ローグ (Rogue) の詳細解説

『ローグ』は、1980年に発表されたダンジョン探索型コンピュータRPGの草分け的存在です。テキストベースのインターフェースながら、その奥深いゲーム性と中毒性の高さから、数多くの熱狂的なファンを生み出し、後のゲームデザインに多大な影響を与えました。

概要

ローグは、UNIXのキャラクター端末用に開発されたCursesライブラリを活用し、マイケル・トイとグレン・ウィックマンによって初期バージョンが開発されました。その後、マイケル・トイがカリフォルニア大学バークレー校に編入したことを機に、ケン・アーノルドが開発に加わり、BSD UNIX上で拡張されました。1983年にはBSD UNIX 4.2に組み込まれて配布され、広く普及しました。

当時のテキストアドベンチャーとは異なり、Cursesライブラリによってダンジョンなどの視覚的な表現を可能にした点が大きな特徴です。ゲーム自体は比較的簡素ですが、プレイを重ねても飽きさせない工夫が凝らされており、多様な戦術を試せる奥深さがあります。このため、多くの熱狂的なファンを生み出しました。

ローグを基に、新しいアイデアやルールを取り入れたゲームが数多く登場し、それらは「ローグライクゲーム」と総称されています。しかし、ローグ自身も根強い人気を保ち続け、ローグライクゲームと並んでプレイする愛好家も少なくありません。

VAXやPDP-11用のBSD UNIXに収録され広まった後、クローン版やPC向けの製品も開発されました。日本では、1985年からアスキーネットでプレイできた時期があり、1986年にはアスキーからPC-8800シリーズやPC-9800シリーズ用のパッケージ版が発売され、日本での普及に貢献しました。

ストーリーと目的

ゲームの舞台となるのは、戦士ギルドからの試練の場である「運命の洞窟(the Dungeons of Doom)」です。プレイヤーは、ギルドの正式メンバーとなるために、洞窟の最深部にあるという「イェンダーの魔除け(the Amulet of Yendor)」を持ち帰ることを目指します。

試練を達成すると、ギルドの正式メンバーとして認められるだけでなく、洞窟で手に入れた財宝も自分のものにできます。プレイヤーは、武器や防具を携え、家族や友人に別れを告げ、迷宮へと旅立ちます。

ゲームの最終目的は「イェンダーの魔除け」を持ち帰ることですが、実際にはその達成は非常に困難です。そのため、プレイヤーは「死ぬまでにどれだけスコアを伸ばせるか」「どこまで深く潜れるか」を競うことが主な目的となります。

「運命の洞窟」は階層構造になっており、現在位置が地下何階であるかが表示されます。「イェンダーの魔除け」は地下26階以降にあるとされ、プレイヤーはアイテムや金貨を集め、モンスターと戦いながらレベルを上げ、魔除けを目指して進んでいくことになります。

スコアは、基本的には迷宮内で拾った金貨の量で決まります。ただし、ゲームをクリアした場合、所持品すべてが金額に換算されてスコアに加算されます。ゲームを中断した場合は所持金の100%がスコアとなるのに対し、死亡時は90%になるという特徴があります。

特徴

ローグには、一般的なコンピュータRPGと比較して、以下のような特徴があります。これらの多くは、後のローグライクゲームにも受け継がれています。

ASCII文字による表現: ゲーム画面では、マップ、アイテム、主人公、モンスターなどがすべてASCII文字で表現されます。例えば、主人公は「@」、呪文の書かれた巻物は「?」、ホブゴブリンは「H」で表現されます。
キーボード操作: コマンド入力は、キーボードで対応する文字を入力して行います。例えば、巻物を読むには「r」、武器を構えるには「w」、鎧を着るには「W」を入力します。大文字と小文字は区別されます。
自動生成マップ: マップは毎回自動的に作成されます。一度立ち去った階のマップは保持されず、再度訪れた際には新しいマップが生成されます。
アイテムの不確定性: 飲み薬、魔法の巻物、魔法の杖、指輪といったアイテムは、その正体が判明するまで不確定な名前で示されます。プレイヤーは、実際に使ったり、特定の魔法を使ったりすることで、アイテムの正体を知ることができます。不確定な名前とその正体の対応は、ゲーム開始ごとにランダムで決定されるため、対応を記憶したり記録したりする意味はありません。
一時的なセーブ: セーブ機能は、あくまで一時的な中断のために用意されています。セーブ後にゲームを再開すると、セーブファイルは消去されます。また、セーブファイルのコピーを利用してゲームを再開することはできません。

これらの特徴から、ローグを快適にプレイできるようになるまでには、ある程度の慣れが必要です。特に、ローグライクゲームを初めてプレイする人にとっては、少し難しく感じるかもしれません。

マップやアイテムが毎回変化する仕様は、作者自身が毎回新鮮な気持ちで楽しめるようにするための工夫であると言われています。当時の大学に設置された大型コンピュータで開発され、仲間内で楽しむために作られたという背景も、このような仕様に影響を与えているのかもしれません。

迷宮の構成と画面表示

ローグでは、マップやモンスターはすべてASCII文字で表現されます。画面の最上段には状況説明やプロンプトが表示され、最下段にはステータスが表示されます。以下に、マップ表示の一例を示します。


----
|.....!....|
|..@.......|
##################+.........:|
# |...%.H....|
# --+-
#
-+-
|.....|
|.?...|
|.....+###### ---+--
--- # |............|
# |............+
#########+..........^.|
|............|
------


画面には、主人公がいる階の俯瞰図が表示されます。上記の例では、3つの部屋が存在することがわかります。「|」と「-」は壁、「+」は扉、「#」は通路、「.」は床、「^」は罠を表します。また、「%」は階段を表します。

上記の例では、一番上の部屋に階段があり、その下の部屋には罠が1つ見つかっています。通路も2本見えていますが、扉の先にさらに通路が続いている可能性もあります。壁の中に隠し扉がある場合もあります。

ローグに登場するモンスターは26種類で、それぞれに特徴があります。マップ上では「A」から「Z」までの大文字のアルファベットで表現されます（原則として、モンスターの名前の頭文字です）。主人公自身は「@」で表示されます。

上記の例では、一番上の部屋の左上に主人公がおり、同じ部屋にはモンスター「H」(Hobgoblin)がいます。周囲の部屋にモンスターがいるかどうかは不明です。

ゲーム中には様々なアイテムが登場し、それぞれ特定の文字で表現されます。「」は金塊、「:」は食料、「)」は武器、「]」は鎧、「!」は飲み薬、「?」は巻物、「/」は杖、「=」は指輪、「,」は魔除けを表します。

上記の例では、主人公がいる部屋には飲み薬と食料が落ちています。また、左下の小さな部屋には巻物が落ちています。画面例の3つの部屋はすべて「明るい」部屋ですが、階層が深くなるにつれて「暗い」部屋が増えてきます。暗い部屋では、主人公の周囲8マス以外は見えなくなり、落ちているアイテムも隣接するまで発見できません。通路は常に暗い状態です。

コマンド

ゲームを進めるためのコマンドは、対応するキーを入力することで実行します。大文字と小文字は区別されます。

コマンドによっては、続けて対象や方向を入力する必要があります。例えば、鎧を脱ぐには「T」を入力するだけですが、鎧を着るには「W」に続けてどの鎧を着るかを入力する必要があります。

コマンドの前には数値を入力することで、コマンドの繰り返し回数を指定できます。例えば、「s」は周囲を探索するコマンドですが、「10s」と入力すれば10回まで探索を繰り返します。

以下に、ローグで使われる主なコマンドを説明します。詳細については、各バージョンのマニュアルやヘルプを参照してください。

移動・戦闘

`h j k l y u b n`: それぞれ左、下、上、右、左上、右上、左下、右下に1マス移動します。
`H J K L Y U B N`: それぞれの方向に、壁やモンスターにぶつかるまで移動します。
`ctrl - h j k l y u b n`: それぞれの方向に、壁やモンスターに隣接するまで移動します。(バージョンによっては`f <方向>`にバインドされています。)
`m <方向>`: 指定した方向に移動しますが、アイテムを拾わずに上に乗ります。(PC版では`g`にバインドされていることがあります。)
`.`: その場で1ターン休憩します。(バージョンによってはスペースキーにバインドされています。)
`<>`: 階段の昇降を行います。`>`で下へ、`<`で上へ移動します。
`s`: 周囲の隠し扉や罠を探索します。(search)
`^`: 発見済みの罠の種類を調べます。(バージョンによっては存在しません。)

アイテム管理・利用

`i`: 所持品の一覧を表示します。(inventory)
`D`: これまで判別したアイテムの一覧を表示します。
`c`: 所持品中の未判別のアイテムに名前を付けます。(call)
`d`: 所持品の一つを足元に落とします。(drop)
`e`: 食料を食べます。(eat)
`w`: 武器を手に構えます。(wield)
`t`: 所持品を投げます。矢などを装備している場合、射るコマンドになります。(throw)
`W T`: 鎧を着脱します。`W`で着て、`T`で脱ぎます。(wear / take off)
`r`: 巻物を読みます。(read)
`q`: 飲み薬を飲みます。(quaff)
`z`: 杖を振ります。(zap)
`P R`: 指輪を着脱します。`P`で着けて、`R`で外します。(put on / remove)

システム

`a`: 直前のコマンドを繰り返します。(バージョンによっては存在しません。)
`ctrl - p`: 直前のメッセージを再表示します。(バージョンによっては`ctrl - r`にバインドされています。)
`S`: セーブしてゲームを終了します。(save)
`Q`: ゲームを中断（放棄）します。(quit)
`o`: ゲームオプションを表示・設定します。(option)
`?`: コマンドヘルプを表示します。
`/`: マップ表示に使われる文字の説明を表示します。
`v`: バージョンを表示します。(version)

関連商品・情報

ローグ ROGUE: アスキーから発売されたPC8801用ソフト。マッピング機能が搭載されています。
ローグハンドブック: ビー・エヌ・エヌから刊行された書籍。ローグに関する詳細な情報が掲載されています。

関連項目

ローグライクゲーム: ローグから派生したコンピュータRPGの総称。Angband、NetHack、不思議のダンジョンシリーズなどが含まれます。
curses: ローグで使用されたUNIX系システムの端末制御ライブラリ。
WinRogue: Windowsでローグをプレイするためのソフトウェア。

外部リンク

The Rogue Home Page (英語)
データ分離型Rogue
Roguelike Restoration Project (英語)
ローグ ハーツ ダンジョン: ローグをベースにしたグラフィックゲーム。ローグとは異なる要素が多いので注意。
Rogue 1984 – The DOS Game, the History, the Science

ローグは、そのシンプルながら奥深いゲーム性で、今なお多くのファンを魅了し続けている古典的な名作です。その影響は、後の数多くのゲームに受け継がれており、ゲーム史における重要な作品の一つと言えるでしょう。

もう一度検索