ワーキン

ワーキン (Workin' with the Miles Davis Quintet)

『ワーキン』は、トランペット奏者マイルス・デイヴィスが率いる伝説的なクインテットが制作したスタジオ・アルバムです。1956年に録音され、それから数年を経た1960年1月頃に世に送り出されました。このアルバムは、デイヴィスが当時の契約上の義務を果たすために行った集中的な録音セッションから生まれた全4作品のうちの一つです。同じセッションからは、『リラクシン』(Relaxin')、『スティーミン』(Steamin')、『クッキン』(Cookin')といった名盤群も誕生しており、『ワーキン』はこれらの姉妹作と共に、その後のジャズ史に大きな影響を与えました。

背景

1955年、マイルス・デイヴィスはジャズ界で確固たるスターの地位を確立していました。彼は新たな黄金期のクインテットを結成します。メンバーは、サックス奏者のジョン・コルトレーン、ピアニストのレッド・ガーランド、ベーシストのポール・チェンバース、そしてドラマーのフィリー・ジョー・ジョーンズという、当時の最高の才能が集結した布陣でした。彼らはプレスティッジ・レコードとの契約消化という目的のため、短期間に集中的なセッションを行います。このセッションでは、あたかもライブのような自然な流れで、彼らが日頃演奏していた長めの楽曲を多く取り上げ、それが後に4枚のアルバムとしてリリースされることになります。

録音と内容

本作『ワーキン』に収録されている楽曲は、主に1956年5月11日と10月26日の2回のセッションで録音されました。特筆すべきは、これらのセッションが一挙に4枚分のアルバムを生み出すという、非常に効率的かつ緊密なものであった点です。この録音方式は、当時のデイヴィスのバンドの勢いやインタープレイをありのままに捉えることに成功し、その後のジャズ録音のあり方にも影響を与えたと言われています。アルバムに収録されている楽曲の中には、エディ・ヴィンソンがマイルスのために書いた曲や、ジョン・コルトレーンが作曲したもののデイヴィス名義でクレジットされた「トレーンズ・ブルース」のような興味深い経緯を持つものも含まれています。「トレーンズ・ブルース」は「Vierd Blues」という別名でも知られ、これはブルーノート・レコードの共同創設者であるフランシス・ウルフがこの曲名を独特の訛りで発音したことに由来するという逸話があります。この曲は実際にはジョン・コルトレーンによって書かれ、元々はベーシスト、ポール・チェンバースのリーダー・セッションで「John Paul Jones」というタイトルで演奏されていました。また、曲の終盤にはコルトレーンとデイヴィスが、チャーリー・パーカーの楽曲「The Hymn」のフレーズを引用して演奏する箇所があります。アルバムの楽曲のうち、「ハーフ・ネルソン」のみが10月26日のセッションで録音され、それ以外の多くの曲は5月11日のセッションで録音されました。

参加メンバー

本作の演奏には、以下のメンバーが参加しています。

マイルス・デイヴィス – トランペット
ジョン・コルトレーン – テナー・サックス (一部の楽曲を除く)
レッド・ガーランド – ピアノ
ポール・チェンバース – ベース、チェロ
* フィリー・ジョー・ジョーンズ – ドラムス

この五人組による演奏は、互いの呼吸を読み合ったスリリングなインタープレイに満ちており、『ワーキン』を含む一連のプレスティッジ諸作は、彼らの創造性の絶頂期を捉えた記録として、今なお多くのジャズファンに愛され続けています。

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