一夜城

一夜城とは

一夜城とは、戦において敵の城を攻める際などに、野戦陣地として非常に短期間で構築される陣城のことを指します。あたかも一晩で建てられたかのように見えることから、この名で呼ばれています。

豊臣秀吉と一夜城

豊臣秀吉が築いたとされる一夜城は、特に有名なものとして墨俣城と石垣山城の二つがあります。しかし、これらはいずれも実際には一夜で建てられたものではありません。

墨俣城

墨俣城は、『絵本太閤記』に初めて登場するとされており、『前野家古文書』にはその築城の経緯が記されています。しかし、織田信長や豊臣秀吉にとって重要なこの築城に関する記録は、太田牛一の『信長公記』をはじめとする信頼性の高い史料には一切記載がありません。そのため、秀吉が実際に一夜城を築いたということを裏付ける史料は存在せず、墨俣城が実在したかどうかは疑問視されています。

石垣山城

石垣山城は、小田原征伐の際に陣城として築かれました。この城は、小田原城側から気付かれないように、山の木を伐採せずに築城を進めました。そして、ほぼ完成した時点で木を伐採することで、一夜にして城が完成したかのように見せかけたと言われています（『小田原北条記』より）。

記録によると、伊達政宗が訪れた際にはまだ完成していなかったものの、その月の20日には千利休が古田織部に宛てた書状で「今月中に完成する」と述べています。後世の軍記物である『小田原北条記』には、「4月1日に兵を上げて陣屋を作り、矢倉を組み立て、その周囲に杉原紙を張り巡らせた」ことで、一夜のうちに「白壁の屋形」が完成したと記されています。

その他の「一夜城」

上記以外にも、一夜城と呼ばれることがあるものがあります。

益富城

益富城は、古処山城の支城であり、秀吉軍が九州征伐で陥落させた際に火の海になったという伝説があります。しかし、実際には火の海にはなっておらず、村人が一斉に篝火を焚いただけであり、城も村人の障子などを貼ったものでした。

織田信忠の一夜城

織田信長の長男である信忠は、1582年に高遠城を攻めた際、伊那谷に「一夜の城」を築いたという伝承があります。伊那市教育委員会が伝承地を発掘調査したところ、堀を広げた痕跡などを確認しました。しかし、実際には一夜で新しく築城したのではなく、元々あった居館を接収して陣地として利用した可能性が高いとされています。この場所が実際に織田軍によって使用されたかどうかを含め、今後も調査が続けられる予定です。

まとめ

一夜城は、戦の際に迅速に構築される陣城を指しますが、歴史的に有名な墨俣城や石垣山城も実際には一夜で完成したものではありません。これらの城の建設には、様々な工夫や戦略が用いられており、一夜城という言葉の背景には、戦国時代の武将たちの知恵と戦略が隠されています。

参考文献

藤本正行『信長の戦国軍事学―戦術家･織田信長の実像―』（JICC出版局、1993年）

関連項目

城

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