一触即発

四人囃子 『一触即発』

1974年にリリースされた『一触即発』は、日本のロックバンド、四人囃子にとって初めてのスタジオ・オリジナル・アルバムです。前年に発表された映画のサウンドトラック『ある青春/二十歳の原点』に続く作品として、彼らのメジャーデビューを飾りました。本作は、日本のプログレッシブ・ロック史においても非常に初期に制作されたアルバムの一つであり、その後のシーンに大きな影響を与えた金字塔として高く評価されています。

アルバムのプロデュースはメンバー自身が手掛け、エグゼクティブ・プロデューサーとしてひのきしんじ氏と高橋重夫氏が名を連ねています。当時の音楽シーンにおいて、自分たちの音楽性を追求するバンド主導の制作体制が確立されていたことがうかがえます。

『一触即発』の最大の特徴は、その実験的かつ高度な音楽性にあります。プログレッシブ・ロックの典型的な要素である、長尺で複雑な楽曲構成、多種多様な楽器の導入、ダイナミックな展開が随所に散りばめられています。森園勝敏のギターは時にテクニカルに、時に情感豊かに鳴り響き、坂下秀実のキーボードはピアノ、オルガン、メロトロン、シンセサイザーなどを駆使して楽曲に奥行きを与えています。岡井大二のドラムスは、変拍子を含む複雑なリズムパターンを自在に操り、中村真一のベースは楽曲のボトムを支えつつも、時にメロディックなフレーズを奏でています。メンバーそれぞれの卓越した演奏技術と、それが一体となって生み出す緊密なアンサンブルが、このアルバムの音楽性を高めています。

アルバムのアートワークは、パイプを咥えたナマケモノが描かれた独特なイラストです。内省的でありながらもユーモアを感じさせるこのジャケットは、アルバムの持つ唯一無二の世界観を象徴しています。

オリジナルLPに収録されたのは以下の5曲です。

• - [hΛmǽbeΘ] (0:45)
• - 空と雲 (5:20)
• - おまつり (やっぱりおまつりのある街へ行ったら泣いてしまった) (11:13)
• - 一触即発 (12:18)
• - ピンポン玉の嘆き (5:03)

アルバムタイトルにもなっている12分を超える大作「一触即発」や、11分を超える「おまつり」など、長尺の楽曲が中心となっています。これらの曲は、静寂と爆発、内省と解放を繰り返しながら展開し、聴き手を圧倒的な音世界へと引き込みます。アルバム冒頭の短いインストゥルメンタル「[hΛmǽbeΘ]」から始まり、「空と雲」「ピンポン玉の嘆き」といった比較的コンパクトながらも濃厚な楽曲を経て、最終的にタイトル曲へと至る構成は、計算され尽くした物語性を感じさせます。

2002年には、リマスタリングされたCD『一触即発+2』が発売されました。このCD版には、1975年にリリースされた彼らのファーストシングル「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」とそのカップリング曲「ブエンディア」の2曲がボーナストラックとして追加収録されています。シングルにベースで参加している佐久間正英氏（後にP-MODELなどで活躍）や、キーボードの茂木由多加氏（後にRCサクセションに参加）など、オリジナルアルバムのメンバーとは異なるミュージシャンがクレジットされており、当時の四人囃子の活動の広がりを知ることができます。

本作にゲスト参加しているミュージシャンとしては、「おまつり」でコンガを担当した石塚俊氏が挙げられます。

『一触即発』は、その革新的なサウンドと高い演奏力によって、日本のロック史における重要な位置を占めています。プログレッシブ・ロックというジャンルがまだ黎明期にあった日本において、これほど完成度の高い作品を生み出した四人囃子の功績は計り知れません。発表から長い年月を経た現在でも、日本のプログレッシブ・ロックを語る上で欠かせない名盤として、多くの音楽ファンに聴き継がれています。

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