三元豚

三元豚とは

三元豚（さんげんとん、英: Three-way Crossbred Pigs）とは、3種類の純粋な品種の豚を組み合わせて生産される一代限りの雑種豚を指します。食肉用に特化して改良された豚の多くは、単一品種ではなく複数の品種を組み合わせた雑種であり、これは「雑種強勢」と呼ばれる現象を活用するためです。雑種強勢により、異なる品種が持つ優れた形質（例えば、繁殖力、成長速度、肉質など）が組み合わされ、親よりも優れた能力を持つ豚が生まれます。三元豚は、まさにこの雑種強勢を最大限に活かし、食用豚に求められる様々な特性を高いレベルで兼ね備えることを目指した生産方式です。ただし、三元豚はあくまで食用としての一代限りであり、その子孫を残すことは想定されていません。

日本では、特に3品種交配の豚を「三元豚」と呼ぶことが一般的ですが、厳密には3種以上の品種をかけ合わせた豚は「ハイブリッド豚」と呼ばれます。四元豚（4品種交配）もハイブリッド豚の一種であり、欧米では四元豚が多く見られますが、日本国内で生産される食用豚の大部分は三元豚が占めています。

日本における普及と主な交配

三元豚方式による豚の生産は、日本国内で昭和40年代以降に急速に普及しました。昭和50年の時点では、すでに国内の肉豚生産の約8割が三元豚によって占められていました。その後、海外から導入されたハイブリッド豚の割合も増加しましたが、現在でも国内生産の主流は三元豚となっています。

日本国内で最も一般的な三元豚の交配パターンは、「LWD」と呼ばれる組み合わせです。これは、繁殖能力に優れたランドレース種（L）と大ヨークシャー種（W）を交配させて生まれたF1（一代雑種）の雌豚を母豚とし、肉質に優れたデュロック種（D）の雄豚を交配させる方式です。この組み合わせにより、母豚の持つ高い繁殖性と、子豚の高い成長速度および優れた肉質を両立させることができます。

近年では、一般的なLWD交配だけでなく、特定の品質を追求するために他の品種が用いられる例も見られます。例えば、最高の肉質を目指してバークシャー種（B）を交配に組み込んだり、極めて高い繁殖能力を持つ梅山（メイシャン）種をかけ合わせに試みたりすることもあります。このように、養豚生産者は自らの経営方針や市場のニーズに応じて、最適な品種の組み合わせを選択して三元豚を生産しています。

三元豚を構成する主な原品種の特徴

三元豚の特性は、親となる3種類の純粋品種の特徴によって決まります。主な原品種の一般的な特徴は以下の通りです。

ランドレース種（L）: 繁殖能力に優れ、多くの仔豚を産むことができます。
大ヨークシャー種（W）: 繁殖能力が高く、また発育も良く産肉性とのバランスが取れています。
デュロック種（D）: 肉に網目状の脂肪（サシ）が入りやすく、霜降り肉として評価される特性を持ちますが、獣臭がやや強い傾向があります。
バークシャー種（B）: 「黒豚」として知られ、肉質のきめが細かく、食味が良いとされます。ただし、一般的な品種に比べて成長速度が遅いという側面もあります。
ハンプシャー種（H）: 高い産肉性を持ち、特に高付加価値とされる部位の比率が高い傾向があります。
梅山種（M）: 極めて高い繁殖能力が特徴ですが、肉質や発育性には難があるとされます。

ブランド三元豚

単に「三元豚」として流通するだけでなく、特定の生産者や地域が独自の基準や飼育方法で生産し、ブランド名を冠した「ブランド三元豚」も数多く存在します。これらのブランド豚は、差別化された品質や特徴を消費者にアピールしています。

平牧三元豚（山形県）: 平田牧場傘下の契約農場などで飼育されるブランド豚。遺伝子組み換えでない植物性飼料を使用し、動物性タンパク質を与えないこと、また一般的な豚より長い約200日間の長期肥育を行うことで、肉質（特に脂身の味、コク、弾力）を高めているとされています。飼料の国内自給率向上を目指し、飼料米を活用した豚も生産しています。
折爪三元豚・佐助（岩手県）: 久慈ファームによって生産されるブランド豚で、「佐助豚」とも呼ばれます。特徴的なのは、飼料に200万年～300万年前の地層由来の植物炭化物を配合している点です。
* 元気豚（千葉県）: 有限会社ジェリービーンズが生産。一般的なLWD交配ですが、特に肉付きが良く、サシが入りやすい厳選された系統の豚のみを使用し、品質の均一化を図っています。

これらの例のように、ブランド三元豚は、交配の組み合わせに加えて、与える飼料、飼育期間、環境、血統選定など、様々な要素によってその品質や特性が作り上げられています。

表示について

豚肉製品において、産地などを明示せずに単に「三元豚」あるいは「四元豚」と表示されているケースも多く見られます。国内で流通する豚肉のほとんど（国内生産の三元豚や輸入される四元豚など）が実際に3種以上の品種をかけ合わせたハイブリッド豚であるため、このような表示は消費者に誤解を与えるものではなく、食品表示として実態に即しているとされています。

三元豚は、現代の養豚技術によって生み出された、効率性と品質を両立させた豚であり、日本の食卓に欠かせない存在となっています。

もう一度検索