上田育弘

上田育弘氏とベストライセンス株式会社による大量商標出願問題

上田育弘氏は、かつて弁理士として活動していましたが、会費滞納により登録が抹消されています。その後、自身と自身が代表を務めるベストライセンス株式会社名義で、膨大な数の商標登録を出願しました。その中には『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ」や『半沢直樹』の「倍返し」といった流行語、あるいは『一週間フレンズ』『ラブライブ』といった作品名、さらにはアルファベットを組み合わせた『MOBILE』関連商標など、多岐にわたる商標が含まれています。

上田氏の出願の特徴は、その膨大な件数にあります。2015年には14,786件、2016年には25,000件を超える出願を行い、これは日本全体の商標出願件数の1割以上に相当します。これには『STAP細胞はあります』といった社会的に注目を集めたフレーズも含まれていました。

特に問題となったのは、2016年のピコ太郎の楽曲『ペンパイナッポーアッポーペン』（PPAP）関連の商標出願です。上田氏は、エイベックス・グループ・ホールディングスよりも先に『ペンパイナッポーアッポーペン』と『PPAP』の商標を出願しました。この行為は、エイベックスとの間でトラブルを引き起こし、ニュース番組でも取り上げられました。上田氏は取材に対し、「正当な競争」と主張しましたが、その行為は多くの批判を招きました。

上田氏とベストライセンス社の行為は、商標法の観点からいくつかの問題点を孕んでいます。まず、多くの出願は手数料未納のため却下されています。しかし、出願情報自体は公開され、他社が商標使用を躊躇する可能性があるため、特許庁は注意喚起を行う事態となりました。さらに、出願内容の中には、他人の著名商標と紛らわしいものや、公益性に反するものも多く含まれており、商標法第4条に抵触する可能性があります。仮に登録されたとしても、楽曲名や歌詞への商標使用は制限されず、また、商標法第29条により、既存の著作権・著作隣接権を侵害する商標は使用できないため、ピコ太郎本人のPPAP使用には影響がないとされています。最終的に、『ペンパイナッポーアッポーペン』と『PPAP』の商標はエイベックスに登録され、ベストライセンス社の出願は却下されました。

2018年の商標法改正は、手数料未納の出願を分割した場合、分割後の出願に元の出願日を維持しないという内容でした。この改正は、ベストライセンス社の行為を抑制するための対策として行われたという見方もあります。

上田氏とベストライセンス株式会社による大量商標出願は、商標制度の運用や知的財産権の保護に関する議論を巻き起こしました。この事件は、商標出願の適切な運用や、悪質な出願行為に対する対策の必要性を改めて浮き彫りにしたと言えるでしょう。また、この事例は、商標戦略における倫理的な側面についても考えるきっかけを与えてくれました。 上田氏の行為は、商標権の取得を目的とした、一種の戦略であったと言えるでしょう。しかし、その方法や倫理的な問題点が指摘され、社会的な批判を招きました。この事件を通じて、商標制度の利用における注意と責任の重要性が再認識されました。

この事件は、商標制度の抜け穴を突くような行為が、社会問題となる可能性を示した重要な事例として、今後とも研究・議論されるべきでしょう。 また、この事件は、企業の知的財産権戦略における倫理的な問題点についても、深く考える契機となりました。

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