二天記

『二天記』の概要

『二天記』は、1776年に著された宮本武蔵の伝記であり、熊本藩の細川家に仕える松井家の二天一流兵法師範・豊田景英によって書かれました。この書物は、武蔵の生涯やその教えを詳細に記録することを目的としており、景英は自らの祖父と父から受け継いだ知識をもとに、武蔵の伝記がより多くの人に正確に伝わるよう努めました。

背景と歴史

景英の祖父、豊田正剛は二天一流の師範であり、武蔵の晩年の弟子たる道家角左衛門や山本源五左衛門、中西孫之丞、田中左太夫などから直接または間接的に武蔵に関する話を聞き、記録を残しました。さらに、正剛の子である正脩も同じく師範となり、武蔵の足跡やその関連品についての調査を行い、その成果を正剛の覚書に加えました。これらの資料は後に、『武公伝』という形でまとめられ、武蔵の歴史に関する重要な資料となっています。

経緯と影響

景英は、祖父と父の意志を継ぎ、世間で広まっていた武蔵に関する誤解を正すため、『武公伝』を基に『二天記』を著したのです。この過程で、景英は重要な情報の一部を省略したり書き換えたりし、伝聞形式の語り手に関する記述も大幅に削除しました。結果として、内容の史料価値は低下しましたが、その代わりに『二天記』はより読みやすいものとなり、江戸時代を通じて武蔵の伝記として広く普及しました。

特に、明治42年に編纂された『宮本武蔵』という書籍（通称「顕彰会本」）でも、『二天記』は重要な原資料の一つとされるなど、武蔵に関する多くの著作に影響を与えました。吉川英治の小説『宮本武蔵』も「顕彰会本」を元にしているため、その後の武蔵関連著作は『二天記』の内容を無批判に受け入れる傾向が強まりました。これによって、多くの俗説が生まれ、多くの場合『二天記』を原資料として引用されることになりました。

現代の見解

最近では、『二天記』の内容が全て創作のような扱いを受けることが増えていますが、実際には当時の二天一流の門弟間で伝わった伝聞も多く含まれています。つまり、全体が虚構であるとは限りません。それでも、史料としての信頼性からは、元となる『武公伝』を直接参照すべきであるとの意見が多く存在しています。

『二天記』には、武蔵の生涯や教えに関する貴重な記録が含まれており、その内容は今なお多くの人に読み継がれています。本書を通じて、宮本武蔵という歴史的人物の理解が深まることを期待します。

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