井上園子

日本の音楽史に名を刻むピアニスト、井上園子（いのうえ そのこ）は、1915年2月22日に東京で生を受けました。父は1881年から神田駿河台に続く井上眼科病院の第七代院長を務めた井上達二氏です。恵まれた環境で育った彼女は、6歳からカテリーナ・トドロヴィチにピアノの手ほどきを受けました。また、通っていた成蹊小学校では、教育者としても知られる小林宗作氏から音楽を学び、その才能を培っていきます。

1926年5月16日、東京において公式なデビューを飾りました。この記念すべき舞台で彼女が演奏したのは、モーツァルトの瑞々しい調べに満ちたピアノ協奏曲第23番イ長調Kv.488でした。

さらなる研鑽を積むため、1929年にウィーンへと渡ります。翌年にはウィーン国立音楽院に入学し、高名なエミール・フォン・ザウアーのクラスで学び、パウル・ヴァインガルテンからも指導を受けました。本場の音楽教育に触れ、ピアニストとしての技術と表現力を磨いていきます。

ウィーンでの学びは実を結び、1933年にはウィーン国際音楽コンクール（Internationaler Wettbewerb für Gesang und Klavierspiel in Wien）の本選へと駒を進めます。これは、国際的な音楽コンクールにおいて、日本人として初めて本選に出場するという歴史的な快挙でした。コンクールではディプロマを受賞し、その実力が国際的に認められた後、ウィーン国立音楽院を卒業。同年9月18日に靖国丸に乗船し、故国である神戸港へと帰還しました。

帰国後、彼女は日本国内での演奏活動を展開しますが、1948年には健康上の理由から一時的に演奏活動を休止せざるを得なくなります。しかし、数年後の1951年には再び公の舞台に姿を見せました。同年5月31日の名古屋市公会堂を皮切りに、6月3日には宝塚大劇場、6月4日には京都劇場と、ヨーゼフ・ローゼンシュトック指揮NHK交響楽団との共演による演奏会に出演。この際、ピョートル・チャイコフスキー作曲の情熱的なピアノ協奏曲第1番を演奏し、健在ぶりを示しました。

井上園子の演奏は、戦前に複数のSPレコードとして録音され、歴史的音源として今日に伝えられています。これらの録音には、グリーグの「春に寄す」、チャイコフスキーの「トロイカ」（四季より）、ベートーヴェンの「トルコ行進曲」と「月光の曲」、モーツァルトの「トルコ行進曲」、メンデルスゾーンの「春の歌」と「狩の歌」、ウェーバーの「舞踏への勧誘」、ショパンの「ワルツ」、グルックの「ガボット」、リストの「ラ・カムパネラ」など、幅広いレパートリーが含まれており、当時の彼女の卓越した技量と音楽性を垣間見ることができます。

日本のピアノ界における草創期において、国際舞台での先駆的な活動は、後進の音楽家たちに大きな影響を与えたと考えられます。

井上園子は、1986年1月19日に東京でその生涯を閉じました。しかし、彼女が残した功績と美しい音色は、今なお多くの人々に記憶されています。

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