公衆送信権

著作権における公衆送信権、送信可能化権、および伝達権

著作権法において、著作権者には、自らの著作物を公衆に送信する権利、そしてその送信を可能にする状態を管理する権利が認められています。これらの権利を、それぞれ公衆送信権、送信可能化権と呼びます。さらに、既に公衆送信された著作物を再送信することを規制する伝達権も存在します。

公衆送信権

公衆送信権とは、著作権者が、無線または有線電気通信を用いて、不特定多数の者（公衆）が直接受信することを目的として、著作物を送信する排他的権利です。例えば、ラジオやテレビ放送、インターネット上のストリーミング配信などが該当します。ただし、同一の建物内での送信（例えば学校の構内放送）は、この権利の対象外とされています。

公衆送信には、大きく分けて以下の種類があります。

放送: 同時に多くの受信者が同一の内容を受信することを目的とした無線通信による送信（例：テレビ、ラジオ放送）
有線放送: 同時に多くの受信者が同一の内容を受信することを目的とした有線通信による送信（例：ケーブルテレビ）
自動公衆送信: インターネット上のサーバーに著作物を保存し、利用者の要求に応じて自動的に送信する行為（例：動画配信サービス）。「入力型」（地上波テレビのIP同時再送信）と「蓄積型」（ビデオ・オンデマンド）に分類されます。
その他: 上記3種類以外。ファクシミリによる同報配信などが該当する可能性がありますが、実際には問題となるケースは少ないです。

送信可能化権

送信可能化権は、インターネットなどを通じて著作物を自動的に公衆に送信できる状態に置く権利です。これは、平成9年の著作権法改正で導入されました。著作物が実際に送信されるのは、利用者がアクセスした時ですが、送信可能化権は、その送信行為の前提となる状態を保護する権利です。

この権利が重要なのは、インターネット上では、利用者のアクセスと送信行為のタイミングがずれること、そしてアクセスがあったことを確認するのが困難な場合があるためです。送信可能化権によって、著作権者は、著作物が不正に送信されるのをより効果的に防ぐことが可能になります。

日本とオーストラリアだけが、この権利を明文で法律に規定している国です。（2004年現在）

送信可能化権侵害事例

送信可能化権の重要性を示す、過去に発生したいくつかの事件を紹介します。これらの事件は、違法にアップロードされたソフトウェア、音楽、ゲーム、漫画、アニメなど、様々な著作物が対象となっています。

1999年から2008年にかけて、多数の違法アップロード事件が発生。逮捕された人物は、高校生から会社員、公務員まで多岐に渡ります。使用された手段も、個人ウェブサイト、P2Pソフト（Winny、Share）、オンラインストレージなど様々でした。
これらの事件は、インターネットを通じて著作物を容易に共有できるようになったこと、そして著作権に関する認識が十分ではなかったことなどが背景にあります。

伝達権

伝達権とは、既に公衆送信された著作物を、受信装置を用いて、さらに別の公衆に伝達することを規制する権利です。ただし、放送または有線放送された著作物を、非営利かつ無料で伝達する場合、あるいは通常の家庭用受信装置を用いた場合などは、この権利は及ばない場合があります。

著作隣接権

著作隣接権者（実演家、レコード製作者、放送事業者など）にも、公衆送信権と同様の権利が認められています。具体的には、放送権、有線放送権、送信可能化権、伝達権などが含まれます。ただし、実演家の権利は、適法に録画された著作物を放送または送信可能化する場合には及ばないなど、著作権者とは異なる点もあります。

まとめ

公衆送信権、送信可能化権、伝達権は、著作権、ひいてはクリエイターの権利を守る上で極めて重要な概念です。特にインターネットの普及により、著作物の無断送信や送信可能化が容易になった現代において、これらの権利の理解と適切な行使は、文化の発展にとって不可欠です。

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