兵部卿物語

兵部卿物語

『兵部卿物語』は、鎌倉時代後期に成立した擬古物語で、作者は不詳ですが、全1巻の作品として存在します。この物語は、兵部卿宮と彼の従妹である式部卿宮姫君との悲恋を中心に展開されており、特に女性の出家や遁世のテーマが色濃く表現されています。文永8年（1271年）に成立した『風葉和歌集』には記載が見当たらないため、それ以降の成立であると考えられています。

この物語は、他の多くの擬古物語が示すように『源氏物語』の強い影響を受けていますが、特に女性の出家を賞賛する様子は中世的な特徴を強く反映しています。

あらすじ

物語は、今上帝の第2皇子である兵部卿宮が従妹の式部卿宮姫君に心を寄せるところから始まります。彼は、彼女への深い想いに悩み、ある日、式部卿宮姫君に似た女性、すなわち按察使大納言女に出会います。兵部卿宮は、身分と名前を偽ってこの女性と契りを結びますが、やがて式部卿宮姫君は斎院となり、兵部卿宮は失恋の痛手に苦しみます。

その後、彼は右大臣の姫君との政略結婚を余儀なくされます。なお一方、按察使の君は右大臣の姫君に仕え、彼女の女房として「按察使の君」と呼ばれるようになります。再び出会った兵部卿宮と按察使の君は、互いの正体を知りつつも密かに愛を育んでいきますが、彼女は次第に苦悩を深めていきます。

挫折と煩悶の末、按察使の君は嵯峨野へと逃れ、出家を選択します。彼女は宮の追跡を逃れ、栂尾にて仏道修行に専念し、僧侶の道へと進むのです。この物語は、愛と苦悩、人間の欲望と霊的な追求との葛藤を深く描き出しており、後の文学にも影響を与える重要な作品とされています。

まとめ

『兵部卿物語』は、ただの悲恋物語にとどまらず、当時の女性の立場や出家に対する視点を豊かに表現した作品です。この物語を通じて、時代を超えたテーマである愛の本質や人間の内面的な葛藤を知ることができます。

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