擬古物語

擬古物語（ぎこものがたり）

擬古物語とは、日本の鎌倉時代から江戸時代初期にかけての時代に書かれた物語文学の総称です。これらの物語は、主に平安時代の王朝貴族を主人公とし、当時の宮廷生活や貴族社会における恋愛、人間関係などを題材としています。

この物語群は、平安時代に隆盛を極めた王朝物語、特に『源氏物語』および、それに続いて成立した後期物語と呼ばれる作品群、例えば『夜半の寝覚』、『浜松中納言物語（みつの浜松）』、『狭衣物語』、『とりかへばや物語』、『有明の別れ』といった作品の流れを強く汲んでいます。後期物語は平安時代末期までに成立しましたが、擬古物語はそれ以降の時代に、王朝物語の伝統を受け継ぐ形で生まれました。

擬古物語の成立は、初期のものでは後鳥羽院政期から後嵯峨院政期の初め頃に遡ります。この頃に書かれた作品として、『いはでしのぶ』や『風につれなき』などが挙げられます。その後も多くの擬古物語が創作され続けました。

これらの物語は、過去の雅やかな王朝時代を理想化し、当時の読者に平安貴族の世界への憧れや興味を掻き立てる内容が多く見られます。また、先行する物語、特に『源氏物語』からの影響は非常に大きく、登場人物の設定や物語の展開に類似が見られる作品も少なくありません。

代表的な擬古物語としては、以下のような作品があります。

『あさぢが露』
『あきぎり』
『石清水物語』
『いはでしのぶ』
『風につれなき』
『苔の衣』
『しづくに濁る』
『住吉物語』
『むぐら』
『わが身にたどる姫君』

また、『源氏物語』に関連する作品も擬古物語に含められることがあります。例えば、『雲隠六帖』や『山路の露』は『源氏物語』の欠落部分を補う目的で書かれた補作とされ、『別本八重葪』は『源氏物語』の「蓬生」巻のパロディとして創作されました。さらに、『夜半の寝覚』を改作した『夜寝覚物語』なども擬古物語として知られています。

その他の作品としては、『海人の刈藻』、『風に紅葉』、『栗栖野物語』、『木幡の時雨』、『恋路ゆかしき大将』、『小夜衣』、『しのびね』、『白露』、『艶詞』、『葉月物語絵巻』、『兵部卿物語』、『松陰中納言物語』、『松浦宮物語』（藤原定家の作と伝えられる）などがあり、これらの作品群は、鎌倉時代から近世初頭にかけての物語文学の多様性を示すものとなっています。

擬古物語は、平安時代の王朝物語の伝統を後世に伝える役割を果たし、その後の文学にも影響を与えました。これらの物語を通じて、当時の人々がどのような世界観や価値観を持っていたのかを知る手がかりを得ることができます。

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