地平を駈ける獅子を見た

地平を駈ける獅子を見た

「地平を駈ける獅子を見た」（ちへいをかけるししをみた）は、歌手・松崎しげるによって歌われる楽曲であり、プロ野球球団、埼玉西武ライオンズの球団歌として広く知られています。

楽曲の誕生背景

この楽曲は、1979年3月25日に松崎しげるの通算19枚目のシングルとして発表されました。その誕生のきっかけは、前年1978年のオフシーズンに遡ります。当時福岡県を本拠地としていたクラウンライターライオンズが、西武グループに買収され「西武ライオンズ」として新たな一歩を踏み出すことになったのです。同時に、チームは福岡から埼玉県所沢市にある西武ライオンズ球場（現：ベルーナドーム）への本拠地移転を決定しました。この名称変更と本拠地移転という大きな節目にあたり、先代の球団歌に代わる、心機一転を象徴する新しい球団歌が求められました。

制作体制と楽曲の特徴

新球団歌の制作にあたっては、作詞に阿久悠、作曲に小林亜星という、当時日本を代表する豪華なクリエイター陣が起用されました。そして、ボーカリストには、当時としては異例ともいえる流行歌手である松崎しげるが抜擢されました。松崎しげるの、特に高音域における圧倒的な歌唱力を最大限に活かす形で楽曲は制作され、ポップス調でありながらも力強く、聴く者にフレッシュで希望に満ちた印象を与える曲となりました。

シングルの発売後、この楽曲はわずか2ヶ月あまりで8万5千枚を超えるセールスを記録するなど、商業的にも成功を収めました。

歌詞に込められた想い

「地平を駈ける獅子を見た」の歌詞は、一般的なスポーツ応援歌とは一線を画しており、野球やスポーツに関する直接的な言葉はほとんど含まれていません。代わりに、誰もが抱く「奇跡を願う」という普遍的な想いを込めた「ミラクル元年」という印象的な一節が盛り込まれています。

また、歌詞の中で描かれる「空の青」「風の白」「地の緑」「炎の赤」といった色彩表現は、西武ライオンズのチームカラーである「ライオンズカラー」を象徴しています。これらの色は、チームのシンボルであるレオのマークと共に、西武グループ全体のコーポレートカラーとしても活用されています。

球団歌としての歴史と現在

この楽曲は、西武ライオンズの歴史と共に歩んできました。特に、チームが数多くのリーグ優勝、日本一を達成した1980年代から1990年代にかけての「黄金期」には、その存在感を強く放ちました。チームが優勝した際には、西武百貨店や西友といった関連企業の優勝記念セール会場や、西武鉄道の所沢駅構内などでヘビーローテーションで流れるのが恒例となり、野球ファンのみならず、主婦層など野球に詳しくない人々にも広く親しまれる楽曲となりました。

現在のベルーナドーム（西武ライオンズ球場）においても、この球団歌は様々な場面で活用されています。試合開始前の場内外での放送に始まり、ライオンズの攻撃イニング（特に5回の攻撃開始時）、そして得点時（Bメロ以降）など、随所で耳にすることができます。さらに、試合終盤の9回裏の攻撃時には、ファンがビクトリーフラッグを振りながら合唱するなど、応援の要となっています。特に、2017年からはライオンズが勝利した際にフルコーラスで場内に流れ、スコアボードに歌詞が表示される演出が行われています。

興味深いことに、廣済堂出版が発行する「12球団全選手カラー百科名鑑」では、各球団の球団歌が掲載されるのが一般的ですが、西武ライオンズの項目では、この曲ではなく1996年に発表された応援歌「吠えろライオンズ」が掲載されています。

チームの日本一達成時には、象徴的なイベントも行われました。例えば、2008年にライオンズが4年ぶりに日本一に輝いた翌日、西武百貨店池袋本店で行われた日本一記念セールのオープニングセレモニーに松崎しげる本人が登場し、この楽曲をフルコーラスで生歌唱して大きな話題となりました。

また、2022年7月22日からは、ベルーナドームの最寄り駅である西武狭山線西武球場前駅のホームにおいて、この楽曲が発車メロディとして使用されており、スタジアムへ向かうファンの高揚感を高めています。

カップリング曲「レッツ・ゴー・ライオンズ」

シングル「地平を駈ける獅子を見た」のカップリング（B面）には、長戸大幸が作曲・編曲を手掛けたインストゥルメンタル楽曲「レッツ・ゴー・ライオンズ」が収録されています。「Lions! Lions!」といった掛け声や、「L! I! O! N! S! Lets Go! Lets Go! Lions!」というコーラスが入るこの曲は、かつてテレビ埼玉のプロ野球中継「TVSライオンズアワー」でエンディングテーマとして使用された時期があり、また文化放送の「文化放送ライオンズナイター」でも1988年までCM前のジングルとして親しまれていました。

40周年記念バージョン

2019年の埼玉西武ライオンズ誕生40周年を記念して、2017年にこの楽曲のリミックス・新録バージョンが制作されました。「地平を駈ける獅子を見た（40thバージョン）」は松崎しげる自身が再度歌唱し、「地平を駈ける獅子を見た（Fan-MIX）」は球団公式パフォーマンスチームであるBLUE LEGENDSが歌唱しています。これらの新バージョンに加え、オリジナルバージョンやカラオケバージョンを収録した記念盤CD「地平を駈ける獅子を見た-埼玉西武ライオンズ球団歌40周年記念盤-」が、記念イベントでの限定販売を経て、後に一般流通盤としても再発売されました。

この40周年を機に、松崎しげるは球団の40周年PRアンバサダーに就任し、記念試合などのイベントで再びこの楽曲を生披露しました。また、40thバージョンの楽曲に合わせて制作されたビデオクリップには松崎しげるが出演しており、現在も西武が勝利した際に、勝利の花火と共に球場ビジョンに上映されるなど、新たな形でファンに届けられています。

関連情報

「地平を駈ける獅子を見た」は、作詞を手掛けた阿久悠が、かつて福岡ダイエーホークス（現：福岡ソフトバンクホークス）の球団歌「ダイヤモンドの鷹」の作詞も手掛けているという共通点があります。また、ライオンズにはこの曲の他にも「若き獅子たち」といった応援歌が存在し、いずれもチームを象徴する楽曲としてファンに親しまれています。

長年にわたり球団とファンと共に歩んできた「地平を駈ける獅子を見た」は、単なる球団歌の枠を超え、西武ライオンズの歴史や文化を語る上で欠かせない、特別な存在であり続けています。

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