地球を呑む

地球を呑む：手塚治虫が描く、欲望と復讐の物語

『地球を呑む』は、巨匠手塚治虫が1968年から1969年にかけて『ビッグコミック』誌上で連載した大人向け漫画作品です。同時期に連載していたナンセンス漫画とは異なる、シリアスで重厚な作風は、読者に強烈な印象を与えます。雑誌編集部からの依頼で長編として制作された本作ですが、手塚自身は当初戸惑いを隠せず、連載中盤には主人公不在の話が挿入されるなど、試行錯誤の跡が見られます。しかし、そのまとまりのなさが、作品に独特の魅力を与えているとも評されています。

物語の始まり：ガダルカナル島の影

物語は、1942年のガダルカナル島から始まります。日本兵の安達原鬼太郎と関一本松は、脱走したアメリカ兵を処刑しますが、死に際にアメリカ兵から謎の写真を受け取ります。そこに写っていたのは、美しい女性「ゼフィルス」。この出会いが、20年後の世界を揺るがす大事件の引き金となるのです。

20年後の邂逅とゼフィルス姉妹の陰謀

20年後、大企業の社長となった安達原は、「ゼフィルス」と名乗る美女が来日したことを知ります。彼は戦後も「ゼフィルス」の謎に囚われ続け、かつて共に「ゼフィルス」を目撃した関一本松の息子、関五本松に調査を依頼します。五本松は酒好きで奔放な男ですが、ゼフィルスの謎に迫っていく中で、驚愕の真実を目の当たりにします。

ゼフィルスは、実は7人姉妹からなるグループであり、それぞれが絶世の美女の姿をした人工皮膚を装着していました。彼女たちは、母親であるゼフィルスから「お金を滅ぼす」「世界の道徳や法律を混乱させる」「男へ復讐する」という復讐の遺志を託されていたのです。この復讐劇は、彼女たちが発明した高度な人工皮膚と、太平洋の孤島「マムウ共和国」に眠る莫大な金塊を巧みに利用することで展開していきます。

五本松とミルダ：運命の出会いと悲劇

五本松は、ゼフィルス姉妹の末妹・ミルダと出会います。ミルダは姉妹の中で唯一、五本松に惹かれ、復讐計画に疑問を持ち始めます。二人の間には愛情が芽生えますが、それはゼフィルス姉妹と五本松の間に、避けがたい悲劇を引き起こすことになります。

人工皮膚と世界の崩壊

ゼフィルス姉妹は、人工皮膚「デルモイドZ」を世界中に拡散させます。その結果、世界は犯罪の横行、貨幣経済の崩壊、そして原始的な社会体制への後退へと突き進んでいきます。

個性的な登場人物たち

物語には、個性的な登場人物たちが数多く登場します。酒を愛する五本松、復讐心に燃えるゼフィルス姉妹、そして、それぞれの思惑を抱える人々。彼らの行動は、世界を混沌に陥れていきます。

モンテ・クリトスは、顔に怪我を負い婚約者に捨てられた女性科学者で、人工皮膚「デルモイドZ」の発明者です。彼女は、マムウ共和国の古代遺跡に隠された金塊をゼフィルス姉妹に提供します。安達原鬼太郎は、戦後大企業の社長となり、ゼフィルス姉妹の陰謀に巻き込まれていきます。ハワード・H・ブリードは大富豪で、ゼフィルスに魅入られた一人です。

手塚治虫の社会風刺

『地球を呑む』は、単なるサスペンス作品にとどまりません。手塚治虫は、この作品を通して、人間の欲望、社会の矛盾、そして世界の未来への警鐘を鳴らしていると言えるでしょう。

様々な版

『地球を呑む』は、これまで様々な版で刊行されています。手塚治虫全集、COMコミックス増刊、小学館文庫、講談社手塚治虫漫画全集、小学館叢書、講談社手塚治虫文庫全集など、多くの読者に愛され続けている作品です。

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