大身

大身（たいしん）

「大身（たいしん）」とは、歴史的な文脈において、身分が高く、多くの所領や収入（家禄）を持つ人物、あるいはその裕福で格式の高い家そのものを指す言葉です。その意味合いは時代によって変化し、特に武家社会において重要な階層を示す言葉として用いられました。

言葉の原義と変遷

本来の意味としては、単に身分が高く、財産が多い、つまり富貴な状態にある家系の当主や、その家自体を広く指しました。しかし、武家社会の形成と発展に伴い、特定の有力な武士層を指す言葉として定着していきます。

室町・戦国時代における大身

室町時代中期から戦国時代にかけて、「大身」という言葉は特に重要な意味合いを持つようになります。この時期は各地で戦乱が頻発し、地方における武士（国人）が力を蓄え、地域の実力者へと成長していきました。そのような国人領主の中でも、複数の郡を支配下に置き、守護大名や戦国大名にも匹敵するほどの広範な所領と大きな勢力を持つに至った者が現れます。

彼らの多くは、単なる新興勢力ではなく、鎌倉時代以来、あるいはそれ以前から続く由緒正しい家柄や氏族の出身でした。このような、広大な所領と強大な武力を持ちながら、かつ古い歴史と格式を兼ね備えた国人領主を、一般に「大身」と称しました。彼らは地域の政治・軍事において極めて大きな影響力を持ち、戦国大名と婚姻関係を結んだり、時にその家臣団の中核を担ったりするなど、重要な役割を果たしました。

江戸時代における大身旗本

江戸時代に入ると、幕府によって厳格な身分制度が確立され、「大身」という言葉は、特に将軍直属の家臣である旗本の中で、比較的高い家禄を与えられた有力な家を指す言葉として用いられるようになります。この階層は「大身旗本（たいしん はたもと）」と呼ばれ、単なる旗本とは一線を画する存在でした。

大身旗本の明確な基準は、家柄や所属によって多少異なりました。例えば、譜代の旗本であれば、将軍に御目見え以上である旗本の中でも特に格式の高い「寄合（よりあい）」と呼ばれる身分に列せられる家系のうち、3000石以上の家禄を持つ者、あるいは寄合以外の旗本でも2000石以上の家禄を持つ者が、大身旗本と見なされました。一方、外様大名から改易や減封などによって旗本となった家系の場合でも、1000石以上の家禄があれば大身旗本と称されることがありました。これは、改易されたとはいえ、もとは大名格であった家柄に配慮した側面もあったと考えられます。

大身旗本は、幕府の役職に就く際には、他の一般の旗本に比べて有利な立場にあり、より重要な役職に任じられる可能性がありました。また、彼らは格式が高く、「〇〇守（かみ）」といった官名を名乗る「守名乗り」が許されるなど、特別な待遇を受ける場合もありました。これは、彼らが単に経済的に豊かであるだけでなく、将軍の直臣団の中でも上位に位置し、特定の社会的地位と格式を伴う存在であったことを示しています。

このように、「大身」という言葉は、時代背景や社会構造によってその具体的な対象は変わりましたが、常にその時代の武家社会において、高い身分と多くの家禄、そして格式を兼ね備えた有力者や家系を指す言葉として用いられてきました。それは単なる経済的な豊かさだけでなく、家柄や権威といった要素も含まれた、複雑な社会的地位を示す言葉であったと言えるでしょう。

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