天災は忘れた頃にやってくる

天災は忘れた頃にやってくる

「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉は、自然災害が発生したときに人々がその影響を忘れがちであることから、再び重大な災害がもたらされることを警告するものです。この表現は、しばしば「天災は忘れられた頃来る」「災害は忘れた頃にやってくる」としても知られており、科学者かつ随筆家である寺田寅彦の言葉に端を発しています。

寅彦と防災

寺田寅彦は、火災や地震などの自然災害に深い関心を寄せており、特に1923年に発生した関東大震災以降、その興味は一層強まりました。震災が起きた日、寅彦は上野の二科展で作品を見ていた際、強い揺れを感じ、建物の無事を確認した後、その珍しい振動を観察することに集中しました。震災後は、焼け跡を巡り、地震によって引き起こされた被害を観察し、記録に残しました。

その後、寅彦は防災に関する随筆を多く執筆し、特に1933年の『津浪と人間』では、津波の定期的な発生を指摘し、警告があっても人々が長年の記憶を忘れてしまうことの危険性を論じています。彼は、「人間界の現象はこのように両者に道理がある」とし、警告する側とそれを忘れる側の意見の双方に耳を傾けることを求めました。

1934年には、代表作の一つである『天災と国防』を発表し、函館大火や手取川の決壊、室戸台風といった災害を舞台に、文明の進展に伴って自然災害の被害が増えることについて言及しました。そして、次のように警鐘を鳴らしています。

寅彦の随筆には「天災は忘れた頃にやってくる」という具体的な表現は存在しませんが、彼の口からは度々このような言葉が発せられていたとも言われています。彼の弟子たちはこの言葉を広める役割を果たしました。

中谷宇吉郎による言葉の拡散

中谷宇吉郎は、寅彦が亡くなった後の1938年、東京朝日新聞に「天災」というタイトルの文章を掲載し、この中で「天災は忘れた頃にきます」という表現を使用しました。このことが、日本におけるこの言葉の初出と考えられています。当時、中谷は寅彦の既存の文章にこの言葉が含まれていると思い込んでいたため、その後、同様の表現は各所で引用されるようになりました。1944年には朝日新聞が「天災は忘れられた頃に来る」を取り上げ、中谷が解説を担当しましたが、彼は寅彦の文中にこのフレーズを見つけられなかったと述懐しています。

中谷は時を経て、1955年に「天災は忘れた頃に来る」と題する随筆を執筆し、この言葉の出所や伝播の経緯を述べています。この言葉は、戦前の日本では新聞やポスターでよく見られ、1950年代には広く知れ渡るようになりました。

現代における意義

このフレーズは、阪神淡路大震災や東日本大震災が発生するたびに引用され、多くの人々の間で共通の認識として受け入れられています。寅彦の防災に対する考え方は、過去の災害を忘れず、備えを怠らないことの重要性を示しています。特に、他の地震学者たちもこの考え方の重要性を指摘しており、「忘れないこと」と「備えること」は対となるものであると認識されています。

派生表現

21世紀に入ると、日本では自然災害が頻発するようになり、「天災は忘れた頃にやってくる」という表現から派生して、新たに「忘れる間もなくやってくる」という言葉や「忘れないうちにやってくる」といったバリエーションが見られるようになりました。近年では、鳥飼否宇による著書『天災は忘れる前にやってくる』が出版され、この言葉の影響を受けた新たなコンテンツも登場しています。

このように、寺田寅彦の言葉は今もなお多くの人に伝わり、災害に対する警鐘として機能しています。歴史的な背景を踏まえつつ、今後も自然災害の危険性を忘れずに、私たちは備えていかなければなりません。

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