妓王

妓王（ぎおう）：栄華と転落の物語

『平家物語』に登場する白拍子、妓王。その生涯は、栄華と転落、そして静かな晩年という劇的なドラマで彩られています。ただし、『平家物語』の諸本によって表記に違いがあり（祇王、義王など）、物語の挿入時期も異なるため、いくつかの異説が存在します。原平家と呼ばれる古い版本には登場せず、13世紀中頃に逸話が加えられたと考えられています。

清盛の寵愛と故郷への思い

加賀国（現在の石川県）の出身とされる妓王は、母・刀自、妹・妓女とともに京都で白拍子として活躍し、平清盛の寵愛を受けました。絶大な権力を誇った清盛に気に入られた妓王でしたが、故郷の村が干ばつで苦しむのを見て、清盛に水路建設を懇願します。こうして完成した水路は「祇王井川」と呼ばれ、現在もその名残りをとどめています。このエピソードは、妓王の深い慈悲心と、権力者への影響力を示す重要な出来事と言えるでしょう。

仏御前の出現と失脚

しかし、清盛の寵愛は永遠には続きませんでした。仏御前という新たな白拍子が現れ、清盛の寵愛は妓王から仏御前へと移り変わります。恩義を感じていた仏御前からのアプローチが逆効果となり、清盛は妓王を冷遇し、ついに宮殿から追い出すことを命じます。去り際に妓王が障子に書き残した歌は、彼女の心の悲しみと、儚い世の無常さを表しています。

「萌え出づるも 枯るるも同じ 野辺の草 いづれか秋に あはで果つべき」

失意の妓王は、自殺を考えますが、母の説得によって思いとどまり、母と妹とともに嵯峨往生院（現在の祇王寺）で出家しました。当時21歳だったと言われています。

出家と仏御前との和解

その後、仏御前も世の無常を感じて出家し、妓王のもとを訪れます。最初は仏御前を恨んでいた妓王でしたが、栄華を捨てて出家した仏御前の姿を見て、その恨みは消え去ります。四人は共に念仏三昧の日々を送り、往生を果たしました。祇王寺には、妓王の墓とされる場所があり、彼女たちの生涯を偲ぶことができます。長講堂の過去帳にも、彼女たちの名前が記されていると伝えられています。

史跡と関連作品

妓王の出生に関わる伝承は複数存在します。滋賀県野洲市には妓王の生地とされる伝承があり、明治時代には「祇王村」が存在しました。また、和歌山県紀の川市にも出生地に関する伝承が残されています。京都の祇王寺には「性如禅尼承安二年壬辰八月十五日寂」という石碑があり、これは妓王の没年を示すと考えられています。自俳句の世界では旧暦2月14日が「祇王忌」として春の季語になっています。他にも、兵庫県神戸市の来迎寺には妓王と妓女の墓とされる塔があります。

妓王の物語は、数々の映画やドラマ、アニメにも取り上げられてきました。これらの作品を通して、人々は妓王の生涯とその悲劇的な運命を、繰り返し想起し続けているのです。彼女の人生は、権力と人間の心の機微、そして時の流れの無常さを私たちに問いかけ続ける、永遠の物語となっています。

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