妻恋神社

妻恋神社：深く歴史に根ざす、都心の鎮守

東京都文京区湯島三丁目に鎮座する妻恋神社は、神紋を檜扇に御の字とする由緒ある神社です。江戸時代には関東総司稲荷神社と称され、王子稲荷神社と並んで多くの参拝者で賑わったと伝えられています。日本七社（日本七稲荷）の一つに数えられるなど、歴史と信仰の厚さを感じさせる場所と言えるでしょう。

祭神と創建

妻恋神社の祭神は、倉稲魂命（うがのみたまのみこと）、日本武尊（やまとたけるのみこと）、弟橘姫命（おとたちばなひめのみこと）です。創建年代は詳らかではありませんが、日本武尊の東征にまつわる伝承が深く関わっています。

伝承によれば、日本武尊が三浦半島から房総半島へ渡る際、激しい暴風雨に見舞われました。その時、妃である弟橘媛命が自ら海に身を投げて海神を鎮め、日本武尊一行の命を救ったとされています。その後、東征を終えた日本武尊が湯島に滞在した際に、郷民たちが尊の妃への深い慕情をいたわれ、尊と妃を祀る神社を創建したのが始まりと言われています。後に、稲荷明神（倉稲魂命）が合祀されたと伝えられています。

江戸時代の盛況と信仰

江戸時代には「妻恋稲荷」と呼ばれ親しまれ、関東総司稲荷神社、あるいは稲荷関東惣社として広く信仰を集めました。その人気ぶりは、王子稲荷神社と肩を並べるほどだったと言われています。この時代、多くの参拝者で賑わった様子が、当時の文献や絵図などに見て取れます。

地域と由緒ある坂道

妻恋神社の氏子地域は、文京区湯島三丁目の一部と、千代田区外神田の一部にまたがります。湯島天満宮や神田明神といった著名な神社と氏子地域が重複している点も興味深いところです。

神社の鳥居前には「妻恋坂」と呼ばれる坂道があります。別名、大超坂、大長坂、大帳坂、大潮坂などとも呼ばれ、坂下近くにある蔵前橋通りと昌平橋通りの交差点も妻恋坂と呼ばれています。この坂道も、神社の歴史と深く結びついた、地域に根付いた地名と言えるでしょう。

歴史と文化を伝える神社

妻恋神社は、単なる神社としてだけではなく、日本武尊や弟橘姫命といった歴史上の人物、そして信仰の変遷、地域の歴史、そして人々の生活と深く関わり合ってきた場所です。現在も多くの参拝者によって大切に守られ、その歴史と文化を伝えています。神社の静寂の中で、古の物語に思いを馳せ、日本の歴史と信仰の深さに触れることができる、貴重な場所と言えるでしょう。

参考資料

東京市本郷区『本郷區史』（1937年）
斎藤長秋編『江戸名所図会』（1927年）
* 文京区サイト（妻恋神社の紹介ページ）

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