宇佐美定満

宇佐美定満：越後を駆け抜けた武将の生涯と虚像

宇佐美定満は、戦国時代、越後国（現在の新潟県）で活躍した武将です。琵琶島城（新潟県柏崎市）を拠点としていたとされていますが、その実像は史料の不足から不明瞭な点が多く、軍記物語などによる創作が入り混じった複雑な人物像となっています。特に、上杉謙信の軍師というイメージは、軍記物における描写が大きく影響しているものの、裏付けとなる確実な史料は存在しません。

出身と出自

定満は、伊豆国宇佐美荘（現在の静岡県伊東市宇佐美）を起源とする宇佐美氏の一族です。越後守護上杉家の重臣として、複雑な越後における勢力争いに深く関わっていました。 宇佐美氏の系譜や定満自身の生年は諸説ありますが、一次史料において「宇駿」「宇佐美駿河守」「宇佐美駿河守定満」「宇駿定満」といった名で確認できる活動があります。

越後動乱期における定満

長尾景虎（後の上杉謙信）が家督を相続する以前の越後では、守護上杉家と守護代長尾為景との間で激しい抗争が繰り広げられていました。定満は、この争いに積極的に関与します。研究者の中には、永正11年（1514年）の岩手城の戦いにおいて、敗死した宇佐美弥七郎房忠の生き残りを定満と同一人物と考える説もあります。この説では、従来定満の祖父とされていた宇佐美孝忠と父とされていた房忠を同一人物とし、房忠は孝忠の晩年の名であったと主張しています。

その後、定満は為景と上杉家一門上条定憲との抗争（越後享禄・天文の乱）では、当初は為景側にいましたが、後に離反。上田衆、妻有衆、藪神衆、大熊氏らと共に定憲側に加勢します。天文5年（1536年）の三分一原の戦いで為景勢に敗北したものの、為景はこの戦いの後隠居したことから、定満の活動が為景の勢力衰退に一定の役割を果たしたと考えられます。 一説には、定満率いる宇佐美勢が為景を討ち死に寸前まで追い詰めたとも伝えられています。この頃、「宇佐美四郎右衛門尉」という人物が定憲側に登場しますが、これが定満と同一人物かどうかは諸説あります。

上杉謙信家督相続後と没落

天文17年（1548年）、長尾景虎が家督を継承すると、定満は景虎に従いますが、景虎と対立した上田長尾家の長尾政景に対抗するため、要害に籠城するなど、緊張した状況が続きます。景虎の家臣である平子孫太郎宛の書状からは、政景からの脅迫や、自身の勢力不足、家臣の士気低下といった苦境がうかがえます。一時景虎から離反した時期もあったようですが、後に復帰し、天文20年（1551年）には政景側と交戦しました。しかし、その後、景虎と政景の対立が終結すると、史料から定満の名は消えてしまいます。これは、定満が景虎から重用されず、宇佐美家が没落したためだとする見解もあります。

ただし、宇佐美氏が完全に断絶したわけではなく、永禄10年（1567年）には「宇佐美平八郎」という人物が武田信玄の信州侵攻への防備に携わった記録が残っています。また、定満が政景を舟遊びに誘い、共謀して溺死させたと伝えられる逸話も存在しますが、これも裏付けとなる史料はありません。

琵琶島城との関係

多くの書籍で定満は琵琶島城主として紹介されていますが、これは江戸時代の軍記物『北越軍記』などの影響が大きく、確実な史料による裏付けはありません。定満の父・房忠の琵琶島在城は「梅花無尽蔵」という史料で裏付けられますが、その後、宇佐美氏と琵琶島城の関係を示す明確な史料は発見されていません。 永禄年間や天正年間の上杉家関連史料に「びわ島殿」「弥七郎殿」といった人物が登場しますが、これらの記述と定満との関連性は明確ではありません。琵琶島城を拠点とした人物は他にいた可能性があり、定満の琵琶島城在城説は、史料に基づかない推測と言えるでしょう。

定満と宇佐美定行

軍記物などでは、宇佐美定行という人物が上杉謙信の軍師として登場しますが、この人物は定満のモデルと考えられています。定行は、歴史上の定満を基に創作された架空の人物である可能性が高いです。

まとめ

宇佐美定満は、越後国の動乱期に重要な役割を果たした武将であったと考えられますが、史料不足からその生涯は謎に包まれています。軍記物などに描かれる上杉謙信の軍師としてのイメージは、歴史的実態とは異なる創作の可能性が高いでしょう。定満の実像解明には、さらなる史料の発掘と研究が不可欠です。

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