宇宙へ

『宇宙へ』について

『宇宙へ』（そらへ、The Calculating Stars）は、アメリカの著名な作家メアリ・ロビネット・コワルによるSF小説で、2018年にトーア・ブックスから出版されました。本作は、2020年に早川書房から日本語に翻訳され、上下巻の形でリリースされました。

この小説は、コワルの「レディ・アストロノート」シリーズの第一作目であり、シリーズは2012年に発表された短編『火星のレディ・アストロノート（The Lady Astronaut of Mars）』につながる物語です。続編として『火星へ』や『無常の月』があり、これらも日本語訳が早川書房から刊行されています。

あらすじ

物語は1952年に設定されています。アメリカ合衆国が宇宙開発競争に勝利してまもなく、隕石がチェサピーク湾に落下し、東海岸の大部分が消失するという大災害が起こります。この事件の後、数学者であり元WASPパイロットのユダヤ系アメリカ人女性エルマ・ヨークは、隕石落下による気候変動が引き起こす危険を計算します。その結果、地球は50年以内に居住不可能になるとの見解を持つことになります。

エルマは、宇宙に人類を移住させるための国際的な努力に参加することを決意し、まずは月へ、次に火星へと向かう宇宙プロジェクトに関わることとなります。この物語は、彼女の旅と挑戦を描きながら、宇宙への憧れと人間の生存本能を探求しています。

本作の特徴

『宇宙へ』は歴史改変SFの要素を強く含み、巻末には実際のアメリカ史や宇宙開発史との相違点を解説する「歴史ノート」が付随しています。また、歴史的背景や作中でのインスピレーションのもととなったノンフィクション文献、関連書籍や映画が紹介されています。これにより、読者は物語の背景をより深く理解することができます。

評価と受賞歴

『宇宙へ』は数々の賞を受賞しており、2019年のネビュラ賞、ローカス賞、ヒューゴー賞の各部門で長編小説としての評価を受け、また同年のサイドワイズ賞も受けています。パブリッシャーズ・ウィークリー誌では、エルマの個人的な人生が「終末論的な背景の中心に、魅惑的な人間を提供している」と評価され、作品全体が「傑出した」と認められています。

さらに、評論家ジェイムズ・ニコルは、コワルが歴史的な人種や性差別の問題を意識的に物語に組み込んでいる点を高く評価しました。このように、『宇宙へ』はただのSF作品にとどまらず、重要な社会的テーマを扱った作品としても大きな評価を得ています。

参考文献

本作には、多くの参考文献や書籍、映画があり、多様な視点で宇宙開発や人類の未来について考えるきっかけを提供しています。コワルの公式ウェブサイトや関連するインタビューも、作品を深く理解する手助けとなるでしょう。

『宇宙へ』は、その魅力的なストーリー展開、深いテーマ、そして知的な興味をかき立てる歴史的背景により、SFファンだけでなく、多くの読者に愛される作品となっています。

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