居抜き

居抜き（いぬき）

定義と概要

「居抜き」とは、事業用の不動産、特に店舗物件を取引する際に、以前使用していたテナントが設置した内装、設備、家具などをそのまま残した状態で次のテナントに引き渡す、あるいは売却・賃貸する取引の形態を指します。

広義にはこのような状態全般を指しますが、狭義では、閉店した店舗の跡地を、同じ業種あるいは関連業種の事業者が借り受け、残された内装や厨房設備、空調などをそのまま活用して新たに開店するケースを特に指すことがあります。このような状態で引き渡される物件を「居抜き物件」と呼びます。

全ての内装や設備が残されているわけではなく、物件によっては床や壁、天井といった基本的な内装の一部や、特定の設備（例えば飲食店の厨房設備など）だけが残されている場合もあります。このような状態は「一部居抜き」と呼ばれることもあります。

異業種間で居抜きが行われる例も見られます。例えば、ファミリーレストランとして使われていた建物を、内装や外観の一部を活用しつつ、別の業種（例：葬儀場やコミュニティスペースなど）として再生するケースなどが該当します。

スケルトンとの対比

居抜き物件と対比されるのが「スケルトン物件」です。スケルトン物件とは、建物の構造躯体のみが残され、床、壁、天井、内装、設備などが全て撤去された、文字通り骨組みだけの状態を指します。

事業用の店舗物件の賃貸契約においては、「スケルトン渡し・スケルトン返し」が基本的な慣習となっています。これは、物件を引き渡す際にはスケルトン状態で貸し出し、契約終了時に借主が元のスケルトン状態に戻して返却するという意味です。借主は自身の事業に合わせて自由に内装工事を行える一方で、契約終了時には多額の解体・原状回復費用を負担する必要があります。

これに対し、居抜き取引はスケルトン渡し・返しの原則から外れる形態と言えます。旧テナントが内装や設備を残したまま引き渡すことで、新テナントはスケルトンからの新規内装工事を省くことができます。また、旧テナントはスケルトンに戻すための解体費用を負担する必要がなくなります。

メリット

居抜き物件を利用する最大のメリットは、初期投資を大幅に削減できる点にあります。

通常、スケルトン状態の物件で店舗を開業する場合、内装工事、厨房設備の設置、空調設備の整備などに多額の費用と長い期間が必要です。しかし、居抜き物件であれば、既存の内装や設備をそのまま、あるいは最小限の手直しで利用できるため、これらの工事費用や設備購入費用を大きく抑えることができます。これにより、開業資金を他の用途（運転資金や広告宣伝費など）に回すことが可能となり、資金繰りにおいて有利になります。

また、内装工事や設備設置にかかる期間を短縮できるため、物件契約から開店までの準備期間を短縮し、早期に事業を開始できることも大きなメリットです。

デメリット

一方で、居抜き物件にはいくつかのデメリットも存在します。

最も顕著なのは、既存の内装や設備の配置に影響を受けるため、自社のイメージや事業計画に完全に合致した理想通りの店舗空間をゼロから作り上げることが難しい点です。特に、飲食店の厨房やトイレといった水回り設備は、配管などの関係から大規模な改装が困難なケースが多いです。

また、引き継いだ設備が予想以上に劣化していたり、故障していたりするリスクもあります。事前の確認が不十分な場合、使用できない設備を修理または交換するために、結局新たな費用が発生してしまうこともあり得ます。その結果、造作譲渡料（残された内装や設備に対して支払う費用）とは別に、当初想定していなかった工事費や設備費用が必要となり、結果的に初期投資が当初の予定より高額になってしまう可能性もゼロではありません。

関係者にとっての利点

居抜き取引は、貸主（オーナー）、旧借主（前テナント）、新借主（新テナント）の三者全てにとって利点をもたらす可能性があります。

旧借主にとっては、スケルトンへの原状回復義務から解放されるため、解体費用や撤去費用を負担せずに済みます。また、内装や設備を買い取ってもらうことで、造作譲渡料という形で多少なりとも初期投資の一部を回収できる場合があります。

新借主にとっては、前述の通り、内装工事費や設備費を抑え、開業準備期間を短縮できる大きなメリットがあります。これにより、より迅速に事業を開始し、収益化を図ることが可能になります。

貸主（オーナー）にとっては、旧テナントの退去から新テナントの入居までの期間（空室期間）を短縮できるという利点があります。スケルトンに戻して新たなテナントを募集する場合、工事期間が必要となり、その間の家賃収入が得られません。居抜きであれば、スムーズな引き継ぎにより空室期間を最小限に抑え、早期に安定した家賃収入を確保できます。

居抜き