山あげ祭

栃木県那須烏山市の山あげ祭：伝統と熱気が織りなす野外歌舞伎

山あげ祭は、栃木県那須烏山市八雲神社の例大祭で奉納される、独特の野外歌舞伎が特徴的な祭りです。高さ10メートル以上、奥行き100メートルにも及ぶ巨大な山と舞台装置を、6つの町が持ち回りで担い、3日間かけて市内を巡行します。その移動距離は20キロメートルにも達し、その壮大さ、ダイナミックさは他に類を見ません。昭和54年には「烏山の山あげ行事」として国の重要無形民俗文化財に指定され、2016年にはユネスコ無形文化遺産の代表一覧表にも登録されました。

歴史と起源：疫病退散の祈願から歌舞伎へ

山あげ祭の起源は、永禄3年（1560年）に烏山城主・那須資胤が牛頭天王に疫病退散を祈願したことに遡ります。当初は相撲や神楽獅子などが奉納されていましたが、常磐津所作が流行したことをきっかけに、常磐津所作を取り入れた歌舞伎が奉納されるようになり、現在の独特の祭りの形が形成されました。

「山」は、烏山特産の和紙を貼ったもので、この山を立てることから「山あげ」と呼ばれるようになりました。江戸中期には、恵みが町全体に行き渡るようにと土の山が作られ、それが次第に和紙で作られるようになり、現在の巨大な山へと発展していきました。山に描かれる滝は、町を潤すという意味が込められています。当初は外から一座を招いていましたが、昭和50年代から地域住民による保存会が設立され、現在では地元住民が所作狂言（歌舞伎）を演じるようになりました。

祭りの流れ：神事から余興、そして町を巡るパレード

祭りは7月1日の「お注連立式」と「奉告祭」から始まり、7月第4週の金・土・日曜日の3日間、本格的な祭りが執り行われます。

笠揃（第4週木曜日）：本番を翌日に控えて、当番町と芸題のお披露目があります。縁起物の三番叟を舞った後、奉告した主芸題が披露されます。
神幸祭（出御）・天王建（金曜日）：当番町が神事を執り行い、神輿を町を巡行後、御仮殿に納めます。その後、神様に対して芸題を奉納する「天王建」が行われます。
奉納余興（訪問）：各町を巡り、山を立てて余興を奉納します。他町への訪問は「訪問」と呼ばれ、それぞれの町の世話人衆が案内役を務めます。
渡御祭（土曜日）：受受当番町（翌々年の当番町）が神輿を6町と屋敷町を巡行します。
還幸祭（還御）（日曜日）：受当番町（翌年の当番町）が神輿を巡行し、八雲神社への還御の際には、神輿が鳥居をくぐるか戻るかで、世話人衆と神輿方との駆け引きが見どころとなります。
ブンヌキ：囃子の調子を競うもので、屋台が出会うと必ず行われます。
笠抜：3日目の最後に「関の扉」「老松」が演じられます。
名越（夏越祓）：7月31日に茅の輪くぐりを行い、1ヶ月の例大祭が終了します。

山あげと余興公演：若衆たちの技と熱意

「笠揃」から「笠抜」までの4日間、10数回の余興公演が市内各所で繰り広げられます。若衆たちは舞台や背景となる装置を組み立て、公演中はそれらを巧みに操作し、花火や音響、光などを用いた幻想的な演出も担当します。公演後は素早く解体し、「地車」と呼ばれる台車に積み込み、次の公演場所へと移動します。この作業の迅速さと正確さは、各町内同士の対抗意識から生まれたもので、若衆たちの技と団結が試されます。

裏話：知られざる山あげ祭の舞台裏

若衆たちは揃いの絵羽浴衣に笠を襷掛けするのが正装です。本屋台は御拝（飾り部分）と後部（舞台装置収納部）に分かれており、後部は舞台設置中は左右に分割され幕となります。地車は公演時には舞台となり、撤収時には台車に変形します。ブレーキもない地車を、若衆たちが巧みに操作する様子は、見ている者を圧倒します。狭い町内では、舞台装置を手で持ち運ぶ「手持ち移動」も行われます。

かつては山は祭事の度に焼却され、小麦粉を糊として大量に使用していたため、祭りの前には小麦粉の相場が上昇したという逸話も残っています。また、旧町内の電線には山が架線にかからないようリボンが付けられ、道路標識は折りたたみ式になっているなど、細やかな工夫が見られます。

後継者育成の課題と未来

近年では、後継者育成が課題となっています。多くの人手を必要とする舞台構成上、一部の町内ではアルバイトに頼らざるを得ない状況も出てきています。過疎化も影響し、祭りの維持には地域全体の協力が不可欠です。しかし、地域住民の熱意と伝統へのこだわりは、これからも山あげ祭を未来へと繋いでいく力となるでしょう。

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