山崎蒸溜所

山崎蒸留所：日本のウイスキーを語る上で欠かせない存在

1923年、サントリー創業者・鳥井信治郎の強い意志と、スコットランドでウイスキー造りを学んだ竹鶴政孝の技術によって、大阪府三島郡島本町に山崎蒸留所は誕生しました。日本初のモルトウイスキー蒸留所として、その歴史は日本のウイスキー文化に大きな足跡を残しています。単式蒸留所としては異例なほど多様な原酒を生産することで知られ、世界的な評価も高い蒸留所です。

創設と黎明期：国産ウイスキーへの挑戦

鳥井信治郎は、赤玉ポートワインやトリスウイスキーの成功を経て、本格的な国産ウイスキー製造を目指しました。スコットランドからの技術者招聘を図る中、竹鶴政孝と出会います。竹鶴はスコットランド留学の経験を持ち、その技術を活かして山崎蒸留所の建設、そしてウイスキー製造の中核を担いました。

蒸留所の建設地選定は、スコットランドと類似した地形・気候を重視した竹鶴と、輸送コストや本社からの距離を考慮した鳥井の間で議論が交わされました。最終的に、名水百選にも選ばれた名水と、湿潤な気候に恵まれた山崎の地が選ばれました。

1924年の竣工後、本格的なウイスキー製造が始まりました。スコットランド製のポットスチルを参考に、日本製の設備も導入。国産大麦とイギリス産ピートを用いた伝統的なスコッチウイスキー製造法が採用されました。しかし、ウイスキー製造と熟成は困難を極め、初期は経営を圧迫しました。鳥井は新製品開発を精力的に行い、資金を確保しました。1929年には国産初の本格ウイスキー「サントリーウイスキー（白札）」が発売されましたが、価格設定や味覚の問題から商業的には成功しませんでした。

戦中・戦後の発展：日本のウイスキーを支える存在に

日中戦争、太平洋戦争中は軍需工場として指定され、原料供給の優先措置を受けながらウイスキーを生産し続けました。むしろこの時期、山崎の出荷量は飛躍的に増加しました。戦後、いち早くウイスキー販売を再開し、GHQ向けや一般消費者向けにウイスキーを供給、1960年代のウイスキーブームの中で生産設備の大幅な拡張を行いました。

戦時中に開発されたミズナラ樽は、ウイスキーに独特の香りを与える重要な要素となりました。また、1980年代後半の大改修では、木製のウォッシュバックと直火加熱式のポットスチルが導入され、原酒の多様化が加速しました。

多様な原酒を生み出す技術：山崎蒸留所の真骨頂

山崎蒸留所の大きな特徴は、多種多様な原酒を造り分ける技術にあります。異なるサイズ、形状、加熱方式、冷却方式のポットスチル、糖化槽、発酵槽、そして多様な熟成樽を組み合わせることで、100種類以上の原酒を生産しています。これは、日本の蒸留所間の原酒交換の文化が根付いていないことから、単一蒸留所で複雑なブレンドを行うための必然的な選択でした。

製造工程：伝統と革新が融合する技術

製麦: 創業当初は自社でのフロアモルティングが行われていましたが、現在は主にスコットランドからの麦芽を輸入。しかし、創業100周年を機に、フロアモルティングを再開し、リッチでコクのあるスピリッツを生産しています。
仕込み・発酵: 天王山系の伏流水を使用し、ステンレス製と木製のウォッシュバックを使用することで、異なる風味の原酒を生産しています。
蒸留: 16基のポットスチルを使用し、直火加熱式と間接加熱式、様々な形状のポットスチルにより多様な原酒を造り出しています。
熟成・瓶詰め: シェリー樽、ミズナラ樽、スパニッシュオーク樽など様々な樽を使い、山崎、白州、滋賀県の近江エージングセラーで熟成されます。
* パイロットディスティラリー: 実験的な製造を行うためのパイロットディスティラリーを1968年に設置。技術開発・研究開発に貢献しています。

製品：シングルモルト山崎をはじめとする数々の名品

山崎蒸留所の原酒は、サントリーの様々なブレンデッドウイスキーに使用される他、シングルモルトウイスキー「山崎」シリーズとしてリリースされています。「山崎12年」「山崎18年」「山崎25年」といった定番品に加え、「山崎50年」「山崎55年」といった限定品も高い人気を誇り、世界中のウイスキー愛好家を魅了しています。それぞれの製品は、熟成年数や樽の種類、ブレンドによって個性豊かな風味を備えています。

100周年を迎えて：未来への展望

2023年には創設100周年を迎え、蒸留所の改修と見学施設のリニューアルを行いました。フロアモルティング設備の導入や見学ツアーの充実により、これからも日本のウイスキー文化をリードしていく存在であり続けるでしょう。

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