幸運の女神

イタリアン・ヒューマンコメディ『幸運の女神』：愛と葛藤、そして再生の物語

2019年製作のイタリア映画『幸運の女神』（原題：La dea fortuna）は、長年の同棲生活に終止符を打とうとしているゲイカップル、アレッサンドロとアルトゥーロの物語を描いた作品です。15年以上連れ添ってきた2人ですが、関係は既に冷え切っており、セックスレス状態が続き、それぞれが浮気を繰り返すなど、破局寸前まで追い込まれています。

そんな中、アレッサンドロの親友であるシングルマザー、アンナマリアが検査入院することになり、幼い娘マルティーナと息子サンドロの面倒をアレッサンドロとアルトゥーロに託します。当初は戸惑いながらも、子供たちと過ごすうちに、2人は次第に子供たちの世話に慣れていきます。しかし、アンナマリアの入院が長期化し、2人の関係はさらに悪化していきます。

アルトゥーロが2年間も他の男性と交際していたことが発覚し、アレッサンドロは激怒。自らの浮気を棚に上げ、ついに2人は決別を決意します。一方、アンナマリアはもしものことがあった場合に備え、子供たちの親権をアレッサンドロに委ねる書類を用意していましたが、2人の破局を知り、その書類を渡すのをためらいます。

子供たちの世話を続けるのが困難になったアレッサンドロは、アンナマリアとは疎遠だった彼女の母親、エレナに子供たちを預けることを決意します。シチリアにあるエレナの屋敷へ向かう旅の中で、アレッサンドロとアルトゥーロは互いに傷つけ合いながらも、離れがたい存在であることを改めて認識します。

しかし、子供たちをエレナに預けたことを報告した矢先、アンナマリアは容体の急変により亡くなってしまいます。葬儀の場で、子供たちの姿が見当たらないことに気づいたアレッサンドロとアルトゥーロは、エレナから激しい侮辱を受け、屋敷から追い出されてしまいます。

長年屋敷で働いていたお手伝い、レアは2人を送る際に、エレナが子供たちを虐待し、過去には実の息子を見殺しにしていたことをほのめかします。一度は諦めかけたアレッサンドロとアルトゥーロですが、子供たちを救い出すことを決意。レアの協力を得て、閉じ込められていたマルティーナとサンドロを救出します。

未成年者誘拐の罪に問われる可能性もある中、4人は海辺で夜を明かし、朝には裸で海に入ります。そして、かつてサンドロが教えてくれた「幸運の女神の秘密」、魔法のトリックを実行します。それは、相手をじっと見つめ、その姿を心に焼き付け、目を閉じると、その相手が心の中に入り込み、永遠に一緒にいられるというものです。

その後、4人がどうなったのかは語られず、物語は幕を閉じます。このラストシーンは、観客にそれぞれの解釈を委ねる、余韻を残す演出となっています。

この映画は、エドアルド・レオとステファノ・アコルシの好演に加え、ジャスミン・トリンカら豪華キャスト陣の演技も見どころです。監督はフェルザン・オズペテク。ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で主演女優賞（ジャスミン・トリンカ）とオリジナル歌曲賞を受賞するなど、高い評価を得ています。日本ではイタリア映画祭2020で上映され、その後オンライン配信もされました。複雑な人間関係とユーモア、そして深い感動が織りなす、忘れがたい作品です。

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