抗アンドロゲン剤

抗アンドロゲン剤（こうアンドロゲンざい）

抗アンドロゲン剤は、抗男性ホルモン剤とも呼ばれ、体内で生産される男性ホルモン、すなわちアンドロゲンの作用を抑制する薬物のグループを指します。アンドロゲンは、特に男性において、性機能の発達や維持、骨密度、筋肉量などに重要な役割を果たしますが、その過剰な働きや関与が様々な疾患の原因となることがあります。抗アンドロゲン剤は、アンドロゲンがその働きを発揮する際に必要な受容体への結合を阻害したり、アンドロゲンの体内での生成自体を抑制したりすることで、その作用を打ち消します。

副作用

抗アンドロゲン剤の副作用は、薬剤の種類や作用機序によって異なります。

男性の場合、一般的な副作用として、乳房の圧痛や肥大、体型の女性化、ほてり、性機能の低下（性欲減退、勃起障害など）、不妊症、骨密度の低下などが挙げられます。

一方、女性においては、一般的に男性よりも忍容性が高いとされています。アンドロゲン受容体を直接阻害するタイプの薬剤は、比較的副作用が少ない傾向があります。しかし、体内でアンドロゲンがエストロゲンに変換される経路にも影響するため、アンドロゲンの生成を抑制するタイプの薬剤は、特に閉経前の女性でエストロゲンレベルを低下させることがあります。これにより、ほてりや生理不順、骨密度の低下といった、閉経に関連する症状が引き起こされる可能性があります。

医療用途

抗アンドロゲン剤は、アンドロゲンが関与する様々な疾患や状態の治療に幅広く使用されます。

主な用途としては、男性の性欲を調整することや、男性・女性を問わず脱毛症や多毛症の改善、ニキビや高アンドロゲンレベルに伴う症状の治療、そして性ホルモン依存性の特定の癌（特に前立腺癌）や良性の前立腺肥大症の治療などが挙げられます。また、MtF（男性から女性へ移行するトランスジェンダー）の方のホルモン療法や、思春期早発症の治療にも利用されることがあります。

男性における主な用途

前立腺癌: アンドロゲンは前立腺の成長を促すため、前立腺癌の発症や進行に深く関わります。抗アンドロゲン療法は、アンドロゲンの作用を抑えることで癌の進行を遅らせ、患者さんの寿命を延ばす効果が期待できます。代表的な治療法には、アンドロゲン除去療法（去勢、GnRHモジュレーターなど）、非ステロイド性抗アンドロゲン剤、アンドロゲン合成阻害剤（酢酸アビラテロンなど）があり、これらを単独または組み合わせて使用します。過去には高用量のエストロゲンも使われましたが、副作用の少ない新しい薬剤に置き換わりました。抗アンドロゲン剤は、治療だけでなく、前立腺癌のリスクを低減する目的で使用される場合もあります（予防）。
前立腺肥大症: 良性の前立腺肥大症は、前立腺が大きくなり、尿道を圧迫して排尿困難などを引き起こす状態です。アンドロゲンが前立腺の成長に関わるため、抗アンドロゲン作用を持つ薬剤、特に5α-リダクターゼ阻害剤（フィナステリド、デュタステリドなど）が、前立腺の縮小や症状の改善に用いられます。
男性型脱毛症（AGA）: 頭皮のパターン脱毛はアンドロゲンの影響で進行することが多いです。5α-リダクターゼ阻害剤や特定の局所用薬剤などが、脱毛の進行を遅らせたり抑えたりするために使われます。全身性の抗アンドロゲン剤は、男性の場合に起こりうる副作用（女性化乳房など）のリスクから、この目的ではあまり一般的ではありませんが、効果があるとの報告もあります。

女性における主な用途

肌と髪の状態: アンドロゲンが関与する皮膚や髪のトラブル、例えばニキビ、多毛症（過剰な体毛の成長）、女性型脱毛症などの治療に用いられます。酢酸シプロテロンやスピロノラクトンなどがよく使われます。一部の薬剤（フルタミドなど）は肝臓への負担から使用が控えられ、代替薬が使われることもあります。これらの症状に対しては、抗アンドロゲン剤と経口避妊薬を組み合わせて使用することもあります。
高アンドロゲン血症: 多嚢胞性卵巣症候群（PCOS）や先天性副腎過形成などにより、体内のアンドロゲンレベルが異常に高い状態を指します。これにより、男性的な特徴の発現（声が低くなる、筋肉量が増えるなど）、多毛症、ニキビ、生理不順などが起こります。抗アンドロゲン剤は、アンドロゲンレベルそのものを正常化させるわけではありませんが、これらのアンドロゲン過剰による症状の改善や進行防止に効果があります。

その他

トランスジェンダーホルモン療法: MtFの方がホルモン療法を行う際に、エストロゲンと併用して使用されます。男性的な特徴を抑制し、女性化を促す目的で使用されます。思春期前のトランスジェンダーの女子に対して、性ホルモンによる体の変化（思春期）を一時的に止める「思春期抑制剤」としても使われることがあります。

代表的な薬剤

日本国内で薬価収載されている薬剤には、クロルマジノンやアリルエストレノール、シプロテロンアセテートなどがあり、これらは主に前立腺肥大症の治療に用いられています。

抗アンドロゲン剤