多嚢胞性卵巣症候群

多嚢胞性卵巣症候群（PCOS）について

多嚢胞性卵巣症候群（PCOS）は、女性に特有の状態で、排卵の障害が生じ、卵巣内に多数の卵胞が蓄積します。この症状は、月経に異常をもたらし、不妊症の原因にもなるため、女性の健康において重要な疾患です。

病態

PCOSにおいては、卵巣の外側が厚くなり、正常な排卵が阻害されます。この状況の中で卵胞が内部に停滞し、「多嚢胞化」します。エコー検査での画像診断では、卵巣の表面に沿って卵胞がつながって見える「ネックレス・サイン」と呼ばれる特徴が確認されます。現在、PCOSの明確な原因はわかっていませんが、テストステロン値の上昇が見られることがあります。このため、ホルモンバランスの崩れが生じ、男性的な外見の特徴（多毛や声が低くなるなど）が現れることもあり、時に社会的な偏見や差別の対象となることがあります。

診断

この症候群の診断は、日本産科婦人科学会が定めた基準に基づいて行われます。具体的には、以下の要件を満たす必要があります：
1. 月経異常の存在
2. エコーによる多嚢胞性卵巣の所見
3. 血中男性ホルモン値の上昇、またはLH（黄体刺激ホルモン）が高く、FSH（卵胞刺激ホルモン）が正常であること。

ただし、卵巣に複数の卵胞が見られるケースは正常な女性でもあり得るため、月経異常やホルモン異常がない場合はPCOSとはみなされません。

臨床像

PCOSは以下のような症状が見られます：

• - 肥満：内分泌の異常によって、肥満が引き起こされることがあり、健康状態が悪化します。食事療法が重要な治療法とされています。
• - 男性化：多毛、にきび、低音声、陰核肥大などの症状が見られることがあります。
• - 月経異常：排卵が行われないため、基礎体温の変化が一時的な月経異常を引き起こします。
• - 不妊：排卵が発生しないことで、不妊のリスクが高まります。

治療法

PCOSの治療は、以下の方法が推奨されています：
1. 減量：適正な体重と体脂肪率の達成が健康状態の改善に寄与します。
2. メトホルミン：糖尿病治療に使用されるインスリン抵抗性改善薬で、PCOSの症状改善に効果があるとされています。
3. ホルモン剤の使用：ピルやカウフマン療法を用いた月経周期の調整が行われます。
4. 不妊治療：妊娠を希望する患者向けに、クロミフェンやhMG-hCG療法による排卵誘発が行われます。
5. 腹腔鏡下卵巣焼灼術：この手法では、腹腔鏡を使い、卵巣に穴を開けて排卵を促進します。従来の開腹手術に比べ、身体への負担が少なくなり、再評価されています。
6. 体外受精：体外受精や未熟卵子の体外培養が実施されることもあります。
7. イノシトール：特にミオイノシトールとカイロ−イノシトールがPCOSの改善に効果的であることが示されています。イノシトールは副作用が報告されておらず、安全性が高いと考えられています。

以上のように、多嚢胞性卵巣症候群は、女性の健康において非常に重要であり、適切な診断と治療が求められます。医療の進歩によって、個々の症例に合わせた治療法が提供されることが期待されます。

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