掌編小説

掌編小説：短い中に凝縮された世界

掌編小説とは、短編小説よりもさらに短い小説形式です。短いながらも、独立した一つの物語として完結していることが大きな特徴です。そのため、「短い短編小説」ともいえるショートショートよりも短い作品ですが、散文詩的な作品も存在し、字数や構成要素による明確な定義は存在しません。

この名称は、作家の中河与一氏によって名付けられたとされています。それ以前は、「二十行小説」や「一枚小説」といった呼称が用いられていたようです。短編小説や中編[[小説]]の中に短い作品が連続して掲載される場合もありますが、掌編小説はそれらとは異なり、それ自体が完結した独立した物語として成立しています。扱うテーマやジャンルは多岐に渡り、制約はほとんどありません。

字数制限：創作の鍛錬場

掌編小説に明確な字数制限はありません。しかし、多くのコンテストでは、300字、400字、500字、600字、800字など、応募規定によって字数制限が設けられています。これらの字数制限を目安に、三百字小説といった、より厳密な定義が提案されることもあります。字数制限は、必ずしも字数そのものではなく、「400字詰め原稿用紙○枚」といった形式で設定される場合もあります。

字数制限の少なさから、小説創作の初心者にとって比較的取り組みやすい形式と言えるでしょう。しかし、短い字数制限の中で、バランスのとれた、魅力的な単独の物語を完成させるためには、高度な技巧と洗練された表現力が必要になります。そのため、限られた字数の中で推敲を重ねることで、創作技術の向上に繋がる優れた訓練方法とも言えます。

近年では、携帯電話の画面サイズや操作性の制約から、ケータイ[[小説]]においても掌編小説の形式が用いられることがありますが、字数制限を設けていないケースも多く見られます。英語圏では、100語のDrabbleや55フィクションなど、語数制限を設けた小説形式が知られています。

日本文学の伝統と掌編小説

掌編小説は、和歌、俳句、川柳といった日本の伝統的な短い詩歌の形式と共通点があり、日[[本人]]の感性や文化に合致した文学形式だと考えられています。ただし、短い形式だからといって、内容まで小さくまとまった小品文ではいけません。短いながらも、小説として成立し、読者に強い印象を与える力強さが求められます。これは、十七文字の俳句が、長大な風景描写よりも力強く、広大な世界観を表現できることと同様です。

また、井原西鶴の『本朝二十不孝』『萬の文反古』、江戸時代の小噺や落語、清少納言の『枕草子』などにも、現代の掌編小説に通じる近代性が含まれていると指摘されています。これらの作品は、短いながらも奥深い世界観や人間ドラマを描いており、掌編小説の原型と言えるかもしれません。掌編小説は、短い形式の中に、人間の感情や社会の様々な側面を凝縮して表現する、奥深い文学形式なのです。

もう一度検索