排尿障害

排尿障害（はいにょうしょうがい）

排尿障害は、尿を膀胱にためたり、適切に体外へ排泄したりする機能に問題が生じた状態を指します。「下部尿路症状（LUTS）」とも呼ばれ、様々な症状を含みます。原因は多岐にわたり、男性では前立腺肥大症、女性では腹圧性尿失禁が多く見られます。また、性別に関わらず神経系の病気による神経因性膀胱も重要な原因となります。

排尿の仕組み

私たちの排尿機能は、脳にある高位中枢と、脊髄の仙髄にある下位中枢によって制御されています。通常、尿が膀胱に溜まっている間、下位中枢の働きで膀胱の筋肉は緩み、尿道の出口（括約筋）は締まることで、尿が漏れないように蓄えられます。膀胱に一定量の尿が溜まると、その情報は神経を伝って脳に送られ、「尿意」として自覚されます。

脳の高位中枢は排尿を抑制する働きをしていますが、排尿したいという意思が固まると、この抑制が解除されます。これにより、膀胱の筋肉が収縮し、同時に尿道括約筋が緩むことでスムーズな排尿が可能になります。

排尿機能は、この「尿を溜める（蓄尿）」時期と「尿を出す（排出）」時期の二段階で成り立っていると考えられています。

適切な蓄尿の条件：膀胱が尿量に応じて圧力を低く保ち、適度な尿意を伝えること。膀胱の出口が安静時や腹圧がかかった時にしっかり閉じていること。意図しない膀胱の収縮（不随意収縮）が起こらないこと。
適切な排出の条件：膀胱の筋肉が適度な力で coordinated に収縮すること。排尿時に膀胱出口や尿道括約筋がタイミングよく緩んで抵抗が低くなること。尿路に物理的な閉塞がないこと。

これらの神経系、中枢、膀胱、尿道括約筋のいずれかに障害が生じると、排尿障害が発生します。

排尿障害の主な症状

排尿障害の症状は、蓄尿の障害と排出の障害に大別されます。

蓄尿障害：
頻尿：日中に8回以上トイレに行くことが多い状態。
夜間頻尿：就寝中に2回以上起きて排尿する必要がある状態。
尿意切迫感：急に我慢できないような強い尿意が生じる。
尿失禁：自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまう。
排出障害：
排尿困難：尿の出が悪い、時間がかかる、途切れる。
尿線狭小・途絶：尿の勢いが弱い、細い、または途中で止まる。
腹圧排尿：お腹に力を入れないと尿が出ない。
尿閉：尿が全く出せなくなる状態。
残尿感：排尿後も膀胱に尿が残っているように感じる。

これらの症状は単独で現れることも、複数組み合わさることもあります。

原因と診断

排尿障害の原因を特定するためには、問診で症状や病歴を詳しく伺い、排尿記録（排尿チャート）をつけてもらうことが一般的です。これにより、1日の尿量や排尿回数、時間帯などが把握できます。

さらに、以下のような検査が行われます。

尿流測定と残尿測定：尿の勢いや排尿にかかる時間、排尿後に膀胱に残る尿の量（残尿）を調べます。これにより排出障害の有無や程度が分かります。
膀胱内圧測定：膀胱に水を注入しながら、尿を溜めている時や排尿時の膀胱内の圧力を測定します。膀胱の弾力性や、排尿筋の不随意収縮の有無などを評価し、蓄尿障害や排出障害の原因（膀胱の収縮力低下、出口部の閉塞など）を推測します。
筋電図：尿道括約筋などの筋肉の活動を調べ、神経障害の有無を確認します。

代表的な原因疾患としては、前立腺肥大症、腹圧性尿失禁、過活動膀胱、そして様々な神経疾患に伴う神経因性膀胱があります。特に高齢男性に多い尿閉は前立腺肥大症が原因であることが多く、緊急処置（導尿）が必要になることもあります。また、多系統萎縮症のような特定の神経疾患では、残尿が多くなる傾向が見られます。

治療法

排尿障害の治療は、その根本原因や症状の種類によって異なります。

1. 原因疾患の治療：
前立腺肥大症に対しては、薬物療法（α1受容体遮断薬など）や手術が行われます。
尿路感染症が原因であれば、抗菌薬による治療を行います。
神経疾患が原因の場合は、その疾患自体の治療と並行して排尿機能の管理を行います。
2. 排尿機能の調節：
薬物療法：症状に応じて様々な種類の薬が用いられます。
蓄尿障害（頻尿、尿意切迫、失禁）に対しては、膀胱の過剰な収縮を抑えたり（抗コリン薬、β3作動薬など）、尿道の締まりを強くしたりする薬が使われます。
排出障害（尿が出にくい、残尿）に対しては、膀胱の収縮を助けたり（コリン作動薬）、尿道の抵抗を和らげたりする薬（αブロッカーなど）が使われます。ただし、一部の薬は記憶機能に影響を与える可能性があるため、医師との相談が重要です。
行動療法：排尿間隔を徐々に伸ばす訓練や、骨盤底筋体操などが行われます。
カテーテル留置・自己導尿：尿を自力で排出できない場合や、残尿が多い場合には、カテーテルを用いて定期的に膀胱から尿を出す処置が必要となることがあります。

排尿障害は生活の質に大きく影響するため、適切な診断と治療が非常に重要です。気になる症状があれば、早めに専門医に相談することが推奨されます。

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