方舟

方舟（はこぶね）

「方舟」は、日本の漫画家である岸大武郎が手掛けたSF漫画作品です。全79ページからなる本作は、1987年に集英社が発行した季刊誌『週刊少年ジャンプ特別編集 少年ジャンプSpring Special』に掲載されました。

物語の概要

物語の舞台は22世紀の地球です。この時代、地球は第五氷期の到来による極度の寒冷化、火山活動による大気汚染、そして頻発する巨大地震に見舞われ、現代文明は壊滅の危機に瀕していました。そんな絶望的な状況下で、人々にとって唯一の希望となっていたのが、宇宙空間に建設された人工的な居住空間、通称スペースコロニーへの移住でした。

2187年、社会の底辺で生きる下層市民の夫婦、アマノとレイは、身を隠す場所もなく雪深い荒野をさまよっていました。宇宙港へとたどり着いた彼らは、そこで未完成ながらも将来的な移住を約束する政府の説明を聞きます。しかし突如発生した大地震によって、レイは崩壊する巨大な建造物と共に転落し命を落としてしまいます。レイは最期に首飾りの石のペンダントをアマノに託すのが精一杯でした。アマノは負傷しながらもシライと名乗る人物に救助されますが、レイとの再会は叶いませんでした。

それから5年後の2192年、アマノはシライをリーダーとする反政府ゲリラ組織に身を投じ、東アジア連邦政府の宇宙省移民計画委員長の地上施設を襲撃します。しかし委員長兼連邦大統領であるキース・アダムスは既にコロニーにおり、地球へ追放されてきた副長のルイスから驚くべき真実を聞かされることになります。それは、コロニーが既に10年以上前に完成し、移民計画もほぼ完了しているという内容でした。政府は2176年の氷期到来以降、一般市民には隠蔽する形で、政府要人、軍関係者、そして選ばれた上級市民を選抜移民として密かに移住させていたのです。残る一万人を乗せた便が、来る7月7日、最後の出発を迎える予定でした。

ルイスはキースの健康状態に関する重大な秘密を示す証拠書類を所持しており、キースはルイスがこの情報を暴露することを恐れ、彼を地球へ追放した上、親衛隊による暗殺を企てます。しかし、その親衛隊はシライたちによって排除されていました。アマノとシライはルイスを射殺し、証拠書類を奪います。

政府は地球との通信を遮断し、地上に残された宇宙港を破壊することで、最後の移民を強行しようとしていました。シライは最後の宇宙船を破壊するための特殊な爆弾「タキオン弾」を用意し、各地のシェルターに潜む仲間たちを集結させます。さらに、キースに対し、証拠書類の内容を敵対する西アジア連邦へ公開すると脅迫し、地上へ降りてくるようメッセージを送るなど、抵抗計画を着実に実行に移していきます。

運命の7月7日。宇宙港では、キースが搭乗した移民船に、厳選された人々が次々と乗り込んでいました。一方で、地上に取り残された大勢の市民には、移民船はまだ出航しないと虚偽の説明がなされていました。シライたちは第三管制塔を爆破するなど宇宙港の主要設備を次々と破壊していきますが、港の警備兵による激しい抵抗を受け、多くの仲間が命を落としていきます。シライは倒れた仲間の首から、彼らが身につけていた石のペンダントを外し、自身の首にかけていきます。主導権を握るはずだったメインタワーの制圧が困難と判断したシライは、計画を変更し、宇宙船そのものを奪うことを決意します。

同じ頃、アマノは催眠ガスで眠らされていたキースを薬で覚醒させ、事態の核心を聞き出そうとしていました。キースは、外惑星開発や軍事にも予算が必要なため、40億人の人口のうち、東西両連邦間の協定に基づきわずか4000万人だけを宇宙島へ移住させることになった経緯を語ります。選ばれた少数だけを救うのは、人類全体の存続を願う「人類愛」ゆえの苦渋の決断だったと主張します。アマノはキースに証拠書類を突きつけ、救済される側は優秀でなくとも良いのかと皮肉に問いただします。そして、宇宙船に設置する予定だったタキオン弾を取り出し、自分が死亡すると同時に爆発する仕掛けになっていると告げます。そして、自身を射殺して乗船者一万人と共に爆死するか、それとも一万人を救うため、黙って自身に殺されるかという究極の選択をキースに迫るのです。キースはアマノから手渡された銃で彼を撃ちますが、それは空砲でした。直後、アマノはキースを射殺します。

眠る移民たちの間を歩くアマノの目に、かつて失ったはずの妻レイの姿が映ります。彼女は深い眠りについていましたが、その手は隣に座る男性と固く結ばれていました。この5年の間にレイに何があったのかを悟ったアマノは、自身の首にかけていたペンダントを静かにレイにかけてやります。そして宇宙船に仕掛けた全ての爆弾を解除すると、操縦席へ連絡し、船の速やかな発進を促しました。自ら船を守るように、攻撃を続けるシライたちへ発砲を始めたアマノを、シライは躊躇なく射殺しました。宇宙港に設置されていたタキオン弾は全て起爆し、巨大な爆発と共に宇宙港は完全に消滅しました。しかしその爆発は、地表を覆っていた厚い塵の雲を吹き飛ばし、地上から満天の星空が見えるようになります。そして、宇宙船は、その星空を目指して順調に高度を上げていったのでした。

この事件の後、東アジア連邦は方針を転換。外惑星開発に充てられていた予算をコロニー建設へ回し、移民制度も「選抜移民」から「自由移民」へと見直されることとなりました。

備考・収録

作品の執筆にあたっては、作者の岸大武郎が当時建築学を専攻する学生でありながら、学業よりも漫画執筆を優先したという情熱的なエピソードが残されています。本作は、1990年に集英社から発売された岸大武郎の短編集『21世紀の流れ星』（ISBN 978-4-08-871053-2）に収録されています。

関連項目

岸大武郎
週刊少年ジャンプの増刊号

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