松浦卓造

松浦卓造

松浦 卓造（まつうら たくぞう、1915年1月22日 - 1977年3月11日）は、昭和期に活躍した将棋棋士。最高段位は八段。神田辰之助九段に師事し、故郷である広島県三原市から将棋の道を歩んだ。棋士番号は当時の制度上付与されていない。

棋士としての道のり

将棋との出会いは早く、中学を途中で辞めた後、アマチュアの世界では既にその名を馳せる実力者であった。しかし、プロ棋士への門を叩いたのは比較的遅く、27歳を迎えた1942年のことであった。師である神田辰之助のもとで研鑽を積み、1944年には四段に昇段し、念願のプロ入りを果たした。

戦後の将棋界再編の中で、松浦八段は急速な昇進を遂げる。1946年から開始された順位戦にC級クラスで参加すると、その実力が認められ、異例の六段への飛び級昇段を果たす。その後も順位戦で好成績を収め、B級1組を経て、最上位クラスであるA級へと順調に駒を進めた。この短期間での上位クラスへの躍進は、彼の卓越した将棋の才能を物語っている。

しかし、その棋士人生の晩年は病との闘いでもあった。体調を崩すことが増え、対局を休場することも度々見られた。順位戦への参加は、第30期におけるB級2組での休場が最後となった。将棋界が主催者変更問題に揺れ、順位戦が中断されていた最中の1977年3月11日、現役棋士としてその生涯を終えた。享年62歳。

将棋のスタイルと功績

松浦八段は、その研究熱心な姿勢と、豪胆で力強い攻め将棋で知られていた。受けよりも攻めを重視し、相手をねじ伏せるような棋風は多くのファンを魅了した。

また、彼は現代将棋においても頻繁に用いられるいくつかの重要な戦法を生み出し、普及に貢献したことでも将棋史に名を残している。特に有名なのが「棒銀戦法」で、早い段階からこの攻撃的な戦法を採用し、その後のブームの火付け役となった。さらに、鉄壁の囲いとして知られる「左美濃戦法」、特にその発展形である「天守閣美濃」も彼の創案によるものである。左美濃は1960年のA級順位戦、対加藤博二八段戦で初めて実戦に投入され、その有効性を示した。加えて、三間飛車に対する効果的な対策として、「4二銀型三間飛車破り」の筋（▲5五歩△同歩▲4五歩など）も彼の研究から生まれたとされる。

人物像と逸話

松浦八段は、将棋盤を離れてもその強烈な個性で周囲に多くの逸話を提供した人物であった。特に「酒とケンカ、そして本間爽悦」という言葉で語られるほど、豪放磊落な振る舞いで知られていた。恵まれた巨躯と並外れた腕力の持ち主で、ケンカをこよなく愛し、「一度熊と力比べをしてみたい」と豪語していたというエピソードも残っている。

酒豪としても知られ、昼間から湯呑み茶碗のような大きな器でウイスキーをストレートで呷っていたという豪快さ。また、東京に滞在していた際、新宿二丁目の不当に高額な料金を請求するバーに連れ込まれた際には、店にいたホステス二人をそれぞれ片手で掴み上げ、その顔同士をぶつけさせたという伝説的な逸話も語り継がれている。当人曰く「あの娘たちはしばらく使い物にならなかっただろう」とのこと。このような常軌を逸した行動力は、彼の強靭な肉体と精神力を物語っている。

しかし、そんな怪力の持ち主でありながら、意外にも病弱な一面も持ち合わせており、これが晩年の棋士活動に影響を与えたことは前述の通りである。

将棋以外の趣味としては、囲碁にも深い造詣があり、囲碁では三段の腕前を持っていた。また、盆栽の手入れも好むなど、繊細な趣味も持ち合わせていた。

昇段履歴

1942年：入門
1944年：四段
1947年5月10日：六段（順位戦C級昇級による跳び昇段）
1948年4月1日：七段（順位戦B級1組昇級）
1954年4月1日：八段（順位戦A級昇級）
1977年3月11日：死去

研究熱心な姿勢と豪快な攻め、そしてユニークな人柄と数々の逸話で、松浦卓造八段は日本の将棋史において忘れられない個性派棋士の一人として記憶されている。

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