栄養と料理

『栄養と料理』：日本の食文化を彩る老舗料理雑誌

『栄養と料理』は、1935年（昭和10年）、香川綾と香川昇三夫妻によって創刊された、日本の料理雑誌におけるパイオニア的存在です。女子栄養大学出版部から発行され、現在もなお、多くの読者に支持されています。単なる料理レシピ集ではなく、創刊以来『栄養学誌』としての側面を強く持ち、「科学的な知見に基づいた健康的な食事」をテーマに掲げています。

創刊から戦後にかけて：栄養学の普及と食生活の変遷

当初は、香川栄養学園（現在の女子栄養大学）の家庭食養研究会の講義録をまとめた形で発行されました。創刊号は、脚気治療に効果的な食事など、当時の社会情勢を反映した内容でしたが、西洋料理や中華料理のレシピも掲載され、幅広い読者層を獲得しました。

戦時中は、食糧難を反映して代用食のレシピが増え、紙の配給制下でも刊行を継続した唯一の料理雑誌となりました。終戦後は紙不足のため一時休刊しましたが、すぐに復刊。香川綾は戦後の食糧難の中で、調理の計量化に尽力し、その成果は『栄養と料理』にも反映されました。しかし、部数増加には苦戦し、デザインの刷新などを経て徐々に読者層を広げていきました。

岸朝子編集長時代：誌面改革と部数の大躍進

1968年、女子栄養大学の卒業生である岸朝子が編集長に就任しました。岸朝子は、誌面を刷新し、より親しみやすく、魅力的な内容を目指しました。

これまでの堅苦しいイメージを払拭し、「遊び心」のある誌面作り、カラーグラビアの多用、読者参加型の企画などを導入。地方の家庭料理を紹介する「日本の食事」や、グルメ情報を発信する「おいしんぼ横町」といった人気コーナーも誕生しました。この改革によって、発行部数は飛躍的に増加し、20万部を突破するほどの人気雑誌となりました。

岸朝子時代の『栄養と料理』は、グルメブームの先駆けとなり、「カロリー」「成人病予防食」といった言葉が一般的に普及するきっかけを作ったとも言われています。しかし、その一方で、誌面が「ミーハーになった」という批判も内部からありました。

1980年代以降：時代の変化に対応した誌面づくり

1980年代以降も、『栄養と料理』は時代の変化に合わせて誌面を進化させ続けました。働く女性の間で高い人気を誇り、コンビニエンスストアの食品を取り上げる特集なども組まれるようになりました。

1990年代には、子供の食生活やストレスに関する特集などが掲載され、栄養学に基づいた食生活と心の健康を結びつけた内容も注目を集めました。また、最新の栄養学研究成果を反映させる努力も継続的に行われています。

食文化史の貴重な資料として

『栄養と料理』は、創刊以来、日本の食文化と栄養学の歴史を記録する貴重な資料となっています。国立国会図書館からも高く評価されており、初期の号のデジタル化も進められています。長年にわたる刊行により、食生活の変化を研究するための資料としても利用されています。

まとめ

『栄養と料理』は、栄養学と料理の両面から、日本の食文化に大きな影響を与えてきた雑誌です。創刊以来、時代に合わせて進化を続けながら、健康的な食生活の普及に貢献し続けています。その歴史と内容は、日本の食文化史を理解する上で欠かせないものと言えるでしょう。

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